NHKの「異端ディレクター」に聞く仕事の流儀

「注文をまちがえる料理店」の仕掛人の顔も

まさかのドクターストップに、取った行動は…(撮影:梅谷秀司) 

コップに水がたまるように小国さんの心にモヤモヤが積み重なり、ついに水があふれ出たちょうどそのとき、再び小国さんの身に事件が襲いかかる。ある日小国さんは、「心室頻拍」という心臓病で倒れたのだ。医師からは「番組制作はもうやめた方がいい」と言われた。テレビ番組を作るのが大好きで、これまで相当なエネルギーを注いできたが、まさかのドクターストップがかかってしまったことにより、小国さんは一時大きく落ち込む。

しかし、ピンチはチャンスでもある。時が経ち、徐々に気持ちを持ち直すにつれて、小国さんは自らが置かれた「番組を作れない」という状況を逆手に取り、「番組を作らないディレクター」になることを決意。これまでくすぶっていた気持ちを晴らすべく、もっと番組のことを知ってもらうための役回りを担おうと考える。

“広め方”を学びに社外留学へ

小国さんは、失意の底から立ち直ろうとしていたときのことを振り返ってこう話す。

「最初はかなりショックでした。もう大好きな番組制作ができないと宣告されたわけですから。でも、今にして思えば、この出来事が起きて、結果的にラッキーだったのかもしれません。強制的に番組制作ディレクターの道が断たれたことにより、退路を断って、ずっとやりたいと思っていたことに挑戦する決心がつきました。もし病気になっていなかったら、おそらくスッキリしない気持ちを引きずりながら番組を作り続けていたと思います」

気持ちを切り替え、番組の広め方を学びたいと考えた小国さんは、局内に異業種の業務経験を積むことができる研修制度の存在を知る。そして、広告代理店のPR部門への赴任を志願し、社外留学が始まる。

「せっかくもらった社外留学の機会なので、『勉強になった』で終わらせるのではなく、広告代理店で学んだことを実務に生かしていきたいと思いました。そこで、留学しているうちから番組のPR実績を作ろうと考えたのです。思い立ったら即行動で、片っ端から自分が知っているプロデューサーに連絡を取っては、番組のPRに取り組ませてほしいと営業しました。その結果、研修期間中にPRの実績を残すことができたため、NHKに戻るとき、制作局付けの『番組を作らなくてもいいディレクター』という、これまでにない役職をもらうことができたのです」

こうして、番組を作るのではなく、「番組を届けるディレクター」になった小国さんは、Web、アプリ、イベントなど、さまざまな手段を駆使してNHKが制作したテレビ番組の話題化に取り組むようになっていった。

ここからの小国さんの活躍は、実際のアウトプットを通して知る人も多いだろう。あたかも自分が番組に出演しているかのような映像を簡単に制作することができるアプリ「プロフェッショナル 私の流儀」のユーザー数が150万人を超えて話題になったほか、各番組のオイシイところだけを集めてインターネットで観られるようにした「NHK1.5チャンネル」など、新たな試みが幅広い視聴者の関心を引き寄せ始めた。

小国さんが手掛けたスマホアプリ「プロフェッショナル 私の流儀」

社外留学経験は、小国さんにもう1つの大きな変化をもたらした。一時的にとはいえ、NHKを離れて外から眺めることによって、小国さんはそれまで当たり前だと思っていた組織のありがたみを認識し直すことができたと言う。

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