NHKの「異端ディレクター」に聞く仕事の流儀 「注文をまちがえる料理店」の仕掛人の顔も

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「番組制作ディレクター時代は、テレビ番組を作ることに没頭していましたが、外に出ることで、これまで意識することがなかったNHKの価値を再認識することができました。中でも、NHKは日本唯一の公共放送であり、真正面から社会課題について取り上げ、問題提起することができる組織だと気づいたことで、私の中に大きな変化が生まれたように思います」

外からの視点を持つことで、これまで意識することのなかったNHKの価値を再認識するように(撮影:梅谷秀司)

この気づきを境に、小国さんはNHKのリソースを最大限生かしながら、あらゆるメディアを通じて世の中の問題を広く知ってもらうための取り組みに力を注ぎ始めた。

NHK「ソーシャル・グッド・プロジェクト」がその代表例である。治療法が見つかっていない難病「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」についてより多くの人に関心を持ってもらうために、小国さんは各界のオピニオンリーダーを巻き込んだ情報発信や、病気と闘っている人たちを応援するミュージックビデオの制作に取り組んだ。そのほかにも、パラリンピックの認知拡大をテーマに取り上げた。パラリンピックについて知り、考えてもらうことで、もっと多様性が当たり前になることを目指した。

社会課題の解決に対する関心と行動を喚起することに情熱を傾けながら、小国さんにはいつか必ず実現させたいと思っていた企画があった。それは、かつて小国さんが「プロフェッショナル 仕事の流儀」を制作するために、介護福祉士・和田行男さんに取材した際に思い浮かんだアイデアだった。

そう、それこそが冒頭でご紹介した「注文をまちがえる料理店」である。

組織の壁を越えて最高のチームをつくる

注文をまちがえる料理店の、「てへぺろ」の精神を表したロゴマーク撮影:森嶋夕貴(D-CORD)

ただし、いい案が思い浮かんでも、それをカタチにすることができるかは別問題だ。ましてや、「注文をまちがえる料理店」のような企画は、見方によってはリスクだらけだし、実現するには大きな壁がいくつもあることは容易に想像がつく。普通なら、アイデアをそっと胸の引き出しにしまっておくところだろう。しかし、小国さんは違った。

「当たり前ですが、自分1人でできることには限界があります。それなら、自分にはできないことができる人を探せばいいのです。そう言うと、『いやいや、私にはできないです』と思われるかもしれません。でも、バンドメンバーを集めるのと同じです。ギターがいなければ、弾ける人を探す。ベースがいなければ、できる人を探す。そうやって人を探していくうちに、プロジェクトの仲間が集まるのです」

いくら志の高いプロジェクトだとはいえ、「この指とまれ!」で簡単に腕に覚えのある人たちが集まったら苦労しない。小国さんは、普段どのようにして人とのつながりをつくっているのだろうか。

「いわゆる『異業種交流会』は、得意ではありません。そもそも人が多いところがとっても苦手なんで(笑)。それより、私は1対1の関係を重視しています。プロジェクトを立ち上げるときに重要なのは、その人がいちばん大切にしていそうなものを教えてもらったり、見させてもらって、そのことに僕の心が震えるほど共感できたりするかどうかだと思っています。

注文をまちがえても、まあ、いいか!撮影:森嶋夕貴(D-CORD)

たとえば、『注文をまちがえる料理店』でデザインや海外展開に取り組んでくれたクリエイターでいえば、おそらくは会社としては売り上げも利益も余り大きくはないであろう「足こぎ車いす」のプロモーションの話を熱っぽく語り、そういった活動を通じて社会課題を解決したいんだと熱い思いを私に語ってくれたことがあったんですね。そうやって出会った魅力的な人たちのことを普段から頭の中にストックしておき、ここぞというときにお声がけするようにしています」

同様に、デザイン、海外展開のほか、IT、資金集め、認知症の知識・介護のスキル、料理・レストラン運営などに関しても、自分にはできないことに関して、志を同じくできる人という前提に立ってプロフェッショナルを集めることにより、小国さんは一見無謀ともとれるような構想を実現していったのである。

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