八木政司
●リーマンショックを天啓とする
10月からリクナビをはじめとする就職ナビが一斉にオープンする。そんな就職活動本番前夜ともいえる9月15日、以前から経営難を指摘されていた米証券4位のリーマン・ブラザーズ(以下リーマン)が自主再建を断念し、日本の民事再生法に相当する連邦破産法11章の適用を裁判所に申請したというニュースが飛び込んできた。リーマンの日本法人が行った記者会見のコメントでは、2009年度入社予定だった新卒学生は20人弱。リーマン側は「内定者への対応については今後、再建計画の検討を進めていくなかで明らかにしていきたい」と述べるにとどまった。企業の採用計画の大枠が決まるのは、職種によっても異なるが、時期的には年末から年明けにかけてという企業が多い。2009年入社の採用については、有効求人倍率(中途採用含む)は年明けから1倍を割る数値で推移していたが、新卒採用活動については実質的にスタートしていたこともあり、有効求人倍率に見られるような影響はほとんどなかった。
しかし、今回のリーマン破たんが及ぼす影響は新卒採用という枠組みのなかで考えても決して小さいものではないはずだ。
まず、実質的に選考活動も兼ねている部分が大きい早期の外資系金融などのインターンシップに参加した学生たちが心理的にこの問題をマイナス要素として捉えることは間違いない。
また、2009年採用では数千人の受け皿となったメガバンクの店舗スタッフ、地域限定のエリア職、AP職といった採用数も減少(平常数値への回帰という見方もできるが…)することも確実視される。
筆者が就職活動をした1988年も前年のブラックマンデーにより証券業界の人気が低下したが、当時は金融のグローバル化はほとんど進んでいなかったこともあり、新卒採用についてはまったくといっていいほど影響がなかった。
しかし、今回は20年前とは影響を受ける金融や経済の仕組みそのものがまったく違う。2009年入社の採用では人気のある金融業界に限った倍率は0.34倍(リクルートワークス調べ)、メガバンク一行で数千人の採用規模があるにもかかわらず、内定は三人に一人という高倍率だったのだ。
今回の破たん劇で最も影響を受ける中心にいるのは、まさしくグローバル化した金融業界そのものであり、影響は金融業界を起点に不動産や輸出産業に波及することが免れない。人気が集中していた業界の受け皿が縮小されるなか、2010年入社に向けて就職活動に取り組むすべての人には「就社ではなく、就職という覚悟」が求められるといえる。
偏った業界人気やいき過ぎた大手志向が続くようだと、大量の就職浪人が出る危険性もある。
就職活動という観点で捉えるならば、リーマン破たんのニュースは「視野を広げ、会社ではなく仕事に就くという覚悟を持って就職活動に取り組むべし」という市場からのメッセージではないだろうか。
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