「家事をきちんと」日本人を悩ませまくる呪縛 なぜ夫が全然手伝わない社会になったのか

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「お茶漬け」や「生卵にしょうゆをかけた卵かけご飯」が朝ご飯の定番だったのは、朝ご飯に食べるのは前の晩に炊いた冷やご飯だったからだ。食文化研究家の森枝卓士さんは、「朝ご飯が温かいというのはごく最近の日本で起きたことだ」と言う。

朝食は温かいご飯にみそ汁、主菜に漬け物に……というのは、旅館など特殊なところならいざ知らず、庶民の食卓事情としては、あったとしてもかなり最近の傾向だ。忙しい朝、何も温かいご飯を用意する必要もなさそうだが、「早寝早起き朝ごはん」を提唱する国民運動のウェブサイトでは、ハードルの高い「主菜、副菜を取り入れたバランスのとれた食事」を推奨している。

以前、日本企業のシンガポール支社の女性に食生活についてインタビューをしたときに、夕飯はホーカー(屋台)で買って帰ることが多い、共働きは忙しいから、家で作ることはない、と言っていた。東南アジアでは女性の管理職なども多く、女性はよく働く。食事は女性が作らなければならないという認識も、日本ほどではないようだ。

世界各国の様子は

世界各国の様子を見てみよう。フランスの「カフェオレとクロワッサン」は有名だが、海外では朝は、簡単な食事で済ませる例は多い。共働き家庭ではなおさらだ。スウェーデンの朝食は、ヨーグルト、複数のジャム、チーズ、ハム、そしてクラッカー。あとはせいぜい、シリアルと牛乳だ。

高校時代をイタリアのミラノ近郊で1年過ごした私の息子は、朝食をほとんど食べない習慣を身に付けて帰国した。口にするのはエスプレッソといわれる濃いコーヒーと、甘いクッキーのようなものだけだ。朝ご飯に卵のつくイギリスだって、宿泊施設で朝食込みプランとなるB&B(ベッド・アンド・ブレックファスト)だと、初日に「卵はどうやって食べる?」と聞かれて、スクランブルエッグなり目玉焼きなりと答えると、後はチェックアウトの日まで、毎日判で押したように同じ卵料理が出てくる。

文部科学省が2006年から推進している早寝早起き朝ごはん運動のウェブサイトの中では、「朝ごはんの内容と学力に相関関係がある」とある。しかし、実際は、朝も夜も屋台での外食が多いシンガポールがOECDの学力調査ではトップ。こうなると、子どもには栄養価の高いきちんとした朝ごはんを食べさせなくてはならない、というのは、事実というより、メディアのイメージ戦略といってもいい。

このように、世界各国の朝食事情を見れば、朝食は温かくなければ、主菜副菜付きでバランスをとらなければダメだというのは、日本でごく最近出てきた考え方だということがわかる。それができなければ親として恥ずかしいわけでもなければ、後ろ指をさされる筋合いもない。お茶漬けで上等なのである。個々人の家事、特に食事のあり方に正解を求める傾向を、日本はそろそろおしまいにしてもいいのではなかろうか。

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