貧困で塾に通えない子を救うクーポンの正体 教育格差に切り込むクラウドファンディング
堀:本来は状況に優劣のある話ではないですからね。
今井:本当は全員に届けるべきだと思っているのですが、毎年あふれ続けているんですね。この状況を延長線上で続けていても、多くの人たちは落選し続ける。だったらこの支援を「制度」として確立し社会の基盤を作っていかないと、本当に意欲を持って期待を持って応募しているのにサポートが受けられず諦めてしまうときがきてしまうかもしれない。そうなる前に社会の仕組み作りに動き出さなくてはと。
堀:「貧困やひとり親世帯で、支援などなくても頑張っている人がいるんだから」という声が議論の起点になることもこれまでありました。今井さんはどう応えていますか?
今井:「何か困ったことがあるときに家族の中だけで解決しなくてはいけない」という一般的な感覚が、今の「子どもの貧困問題」を生んでいるんだろうなと思っています。私たち「チャンス・フォー・チルドレン」が東北や関西での活動で出会ってきたのは、「受験勉強で周りの友達が塾に通っている中で『自分も行きたい』と言いたいけれど、親の状況を理解しているので言い出せない」という声。一方、お父さん、お母さんたちも「本当は行かせてあげたいけれど、子どもたちを思うとおりの学びの場に行かせてあげられないのは申し訳なく思う、情けなく思う」と言っているんですよね。当事者だけでできることには限界がある。家族だけで解決させていくのではなく、社会全体で支えていかないといけないのではないかと思うからこそ、「スタディクーポン」のような支援を仕組み化していきたいなと。
「家族以外にも支えてくれる人がいる」という心強さ
堀:具体的に当事者の子どもたちの言葉で印象に残っていることはありますか?
今井:「このクーポンを通じて自分の親とか家族以外に支えてくれる人がいることに気がつきました」と。この課題の本質を表しているなと。困難に対処するとき、相談するのは親だけ、家族だけだったのが、「家族以外にも支えてくれる人がいる」ということは、彼らの頑張りにつながるんですよね。一人ひとりが社会から大事にされているということを実感してもらえるというのも大きいなと思っています。
堀:子どもたちも、日々やることが沢山あって、社会との接点を持つ余裕がないですよね。
今井:受験勉強する子どもたちも、大変な状況でやっている。お父さん、お母さんの看病をしていたり、弟や妹の面倒を見ていたり、家事も全部自分でやっていたり。しかし、「このクーポンを使っているお子さんが、この支援を通じて精神的に救われた」という声もあったんです。「このクーポンの裏側で多くの人たちが自分のことを応援している、見ているというのを感じる。みんなの応援があるんだなと実感する瞬間がある。それが大きな原動力になっている」。これは多くの子どもたちの共通の声としてあります。これが実は、この活動の隠れた目的、意味なのかなと思っています。
堀:これまでの支援を受けて、すでに社会に出て働き始めた世代も出始めているんですよね。
今井:この支援を通じて、志望する学校に通い卒業し、就職したお子さんもいます。まさに夢に向けて今も頑張っているお子さんもいます。そして、支援を受けた子どもたちが「大学生ボランティア」として駆けつけてくれたり、募金を手伝ってくれたり、だんだん彼ら、彼女らも支える側にまわろうと育ってきている状況も見えてきました。