日本酒に賭ける男の「好きを仕事に」した人生 才能に恵まれずともひたすらやり続けてきた

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――不安を抱えながら、「細い道」を信じて、進んでいく。

数岡氏:とことんやってダメなら諦めて、別の道へ進む。けれど、可能性があるのならやりきる。私は、特別才能に恵まれていませんが、ただ、やるべきことをやり続けてきました。研究者のやるべきこととは結果を出すこと、実績を重ねることなので、とにかく「才能がなければ誰よりも勉強」と、すべてを研究と勉強に費やしていましたね。自分が持っている能力や、状況の範囲内でやることをやっていけば、急激な変化を望めるほどの能力はなくとも、時間をかけて緩い坂道にすることで、その道を作っていくことで羽ばたくことができる。そう思って、なんとか細い道を探りながらすすんでいました。

結果的に、その細い道は、三つの大きな道、人生の選択肢となりました。京大でポスドクとして残り酵素の研究を続けること、内定をいただいていた世界規模の酵素を研究・開発する企業に就職すること、そしてもう一つが、ここ農大での研究・教育職だったんです。正直、研究という側面ではどれも魅力的でしたが、私の家族に関係する制約の中で一番の最適解となるのが、農大で働くことだったんです。そうして、2006年、いくつもの偶然が重なって、私はここ東京農業大学の酒類学研究室で、日本酒の世界と関わることになっていったんです。

「選んだ道をよい道に」日本酒の研究者、教育者として

「選んだ道を、存分に楽しみたい」

数岡氏:「どうせなら選んだ道を、存分に楽しみたい」。これは研究だけでなく、すべてのことに言えると思うのですが、「好き」なことを仕事にやっていたとしても、趣味ではないのでやはり大変さはつきものです。けれど、やらされて仕方なくやるのか、楽しんでやるのかによって、その成果も、自分自身も大きく変わってくると思うんです。

――「選んだ道をよい道に」。

数岡氏:今私がここにいるのは、さまざまな偶然の重なりの産物です。そうした偶然をたぐり寄せてくれたのは、たくさんの先生方との出会いでした。私には研究者としてだけではなく、東京農大の酒類学研究室に所属する教員、教育者としての役割もあります。研究室ごとに求められる学生像はさまざまだと思いますが、この研究室では学生の自主性を重んじています。学生自らが考え、動いていく。そのための環境づくり、ルールづくりというものが私の役割であると思っているのですが、こうした考えの根底にある基礎は、私が出会い指導いただいた先生たちの影響があります。おかげさまで現在は、やるべき事をちゃんとやりつつ、でも笑いの絶えない学生達が集まる研究室となっています。

幸い、この研究室に集まってくる学生は皆、進路選択時にお酒に興味があり希望して入ってきた者ばかりです。せっかくお酒に対して興味を抱いて、ここに集まった以上、嫌いにならないで欲しい。こと孤独になりがちな研究において、続けることは業績を残すうえで大切なことですが、その後押しとなる「好き」という気持ちを壊したくないんです。

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