日本酒に賭ける男の「好きを仕事に」した人生 才能に恵まれずともひたすらやり続けてきた
――「好きを仕事に」楽しんでいらっしゃる。
数岡氏:研究職というのは、なかなか孤独なもので、ともすれば研究室にこもりがちにもなってしまいます。私の場合、たまたまその研究の対象の先に「お酒」が大きく関わるということもあって、たくさんの人たちと仕事ができています。ここに集まってくれた学生も含め、研究室だけにいては出会えなかった人たちと交流でき、それが研究成果にも繋がる今の立場は、研究者としても仕事人としても、そして日本酒を愛する者としても(笑)、大変恵まれていると感じています。
ただ私は、最初からこの世界を目指していたわけではなく、今この場にいるのも実はいくつもの偶然と出会いが重なった結果なんです。振り返ってみると、好きと仕事の順序が逆と言うか、「選んだ道をよい道に」と進んできた結果だったように思います。
「明解な数式の世界」を愛した少年の意外な進路選択
数岡氏:もともと引っ込み思案なところがあり、将来への明確な目標というものを持たずに、のんびりと高校生まで過ごしていたように思います。私の出身地は、兵庫県の稲美町という所で、のどかな田園風景が広がる田舎で育ちました。小さい頃から高校1年生まではサッカーに熱中していて、ほとんどボールを追いかけていた記憶しかありません。
将来に研究者を志したこともなく、大学進学の経験がなかった両親からも、「(大学に)行きたいのであれば行ってもいいよ」という感じで、これといって敷かれたレールもなかったんです。高校1年生の時に、自動車事故に遭ってしまいサッカーは辞めることになるのですが、それで悲観するようなこともなく、それならば別のことをするかと、そこでようやく「勉強」というものに取りかかったくらいです。
ただ、ずっと好きだったのは、「物理」の世界でした。身の回りの現象から果ては宇宙まで、あらゆる事象が基礎となる公式で説明できる、解を“自分で”導き出せる物理の世界が大好きだったんです。明解なことが好きなのかもしれません。それで、通常「好き」からはじまると自然と「得意科目」になり、さらには自動的に「受験科目」となるわけですが、自分の場合、大学受験ではまったく別の分野に進むことになりました。