健康格差の解消には「楽しい仕掛け」が必要だ

WEBメディア全文公開プロジェクト 第4回

「必ず手を上げるときは掌を内側にしてください、外にすると肩をいためちゃうから」

このイベントの狙いは、介護予防という目的を前面に押し出すのではなく、キャバレーという楽しい仕掛けを前面に出し、多くのお年寄りに参加してもらうことにある。会場には、認知症介護や高齢者医療のプロが参加しているので、何らかの措置が必要と思われる高齢者には、治療や医療機関への来院をそれとなく促すこともできる。もちろん、このイベントでも「ポピュレーション・アプローチ」の手法を用いて、参加者を認知症やその予備群の方などと限定することはしない。「しあわせすぎキャバレー」を企画した小泉圭司(こいずみけいじ)さんは、こう説明する。

「特定の高齢者ではなく、すべての高齢者を対象にすると、閉じこもりがちな高齢者の方も参加しやすくなります。こうした仕掛けをしていくことによって、地域の高齢者を誰かしらの目に触れさせようという狙いです。こうした取り組みが、高齢者の皆さんの身にいざ何かあった時に、速やかに専門職の方につなげられるようなきっかけになると考えています」

「幸手プロジェクト」を主導する中野さんは、こうした普段からの「さりげない対応」こそが、今後の超高齢社会に重要になってくると指摘する。

「たとえば『認知症』という、ある病気だけをクローズアップしてしまうと、高齢者の方々にとっては、やっぱり怖いものであったり、何か得体の知れないものだったりして身構えてしまうわけです。医療や介護は、もっと頭を使って、その地域の方々が馴染むような形で入っていかなきゃいけない。『しあわせすぎキャバレー』のように、さりげない日常会話から解決の糸口が出てくるのが、ひとつの自然な方法なのかなと考えています」 

愛知県武豊町に世界が注目するワケ

「幸手プロジェクト」は、地域のコミュニティの力を活用し、小規模ながらも「ポピュレーション・アプローチ」の手法を導入している点が活動の成功につながった。近年、こうした地域住民どうしの「つながり」を作ることが「健康格差」の解消にも有効であることが様々な調査で明らかになりつつある。公衆衛生学では、地域における個人や組織間の結束、信頼、助け合いの規範の度合いなどを「ソーシャル・キャピタル」(社会関係資本)と定義している。

人と人とのつながりや、人の絆こそが社会的資源であるという考え方だ。日本は古くから地域コミュニティの基盤があり、住民相互の「つながりの力」が強固だと言われてきた。こうした「つながり」や「絆」は時に「しがらみ」を生み出すこともあり、煩わしい面もあるが、未曾有の超高齢社会の到来を前にして、これを有効に活用しようという気運が世界で高まっている。

戦後、核家族化が進み、子育て世代の都会への流出が進んだことから、地域の「つながりの力」が弱体化しつつある日本社会。本来であれば、こうした地域住民のつながりは自然に生まれるもので、国や自治体が介入するものではないが、行政がきっかけを提供する形で「ソーシャル・キャピタル」の再構築を進める取り組みが全国各地で行われている。

その中で、世界からも注目されているのが、愛知県武豊町で行われている介護予防プロジェクト「憩いのサロン」である。愛知県武豊町は、知多半島のほぼ中心にある人口4万3000の町だ。武豊町では、2007年から町の介護予防施策として、高齢者が集い、楽しみ、交流できる「憩いのサロン」を開設する取り組みを行ってきた。その結果、サロンに参加した人たちの要介護認定率が半減したという実に驚くべき結果を残したのである。

武豊町の高齢化率(総人口に対して65歳以上の高齢者人口が占める割合)は2015年時点で23.4%と高い。WHOや国連の定義では、高齢化率が21%を超えた社会を「超高齢社会」とするが、武豊町はどっぷりと「超高齢社会」に突入した先進地区である。町の危機感も強く、早くから介護予防対策に取り組んできた。

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