健康格差の解消には「楽しい仕掛け」が必要だ

WEBメディア全文公開プロジェクト 第4回

2008年にWHO(世界保健機関)が診断基準を発表したことを受けて、日本でもいわゆる「メタボ対策」として、特定健康診断が実施され、メタボ該当者やその予備群に対して、血液検査やお腹の周径を巻き尺で測り、内臓に脂肪を蓄積した肥満者に対して、生活習慣の改善を促す施策が取られた。

ところが「メタボ対策」の成果は芳しくなかった。国が取り組む「21世紀における国民健康づくり運動」(健康日本21)では、2000年から2010年までの10カ年の数値目標を掲げたが、メタボ対策においては「メタボリックシンドロームを認知している国民の割合の増加」という目標こそ達成したものの、肝心の「メタボリックシンドロームの該当者や予備群の減少、高脂血症の減少」は「(スタート時点と)変わらない」という評価に終わってしまった。

なぜうまく機能しなかったのか。近藤さんは「ハイリスク・アプローチ」が有効であるには、次の4条件を満たす必要があると分析している。

①リスクが特定の比較的少数の者に限ってみられる

②ハイリスク者を診断する方法が確立している

③長期間にわたり有効な予防あるいは治療法も確立している

④それがほとんどのハイリスク者に対して現実に提供できる

近藤さんは語る。

『週刊東洋経済』は、2016年7月2日号において「健康格差」を特集。同特集は、NHKスペシャルの参考文献にもなった(表紙画像をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします)

「かつて結核などの感染症対策では、この4条件がほぼ満たされていました。結核のリスクがある人はツベルクリン反応強陽性者に限られていましたし、診断方法や治療法も確立されていた。それを結核のリスクがある人に対して確実に提供できました。ところが、『メタボ対策』ではそうはいかなかった。メタボのリスクがある人の数は、当時2000万人超(平成19年国民健康・栄養調査)と言われ、極めて多数でしたし、治療法も確立されていませんでした。世界の研究論文を網羅的に集めたシステマティックレビューでは、一般集団を対象とする健康指導の効果は短期的なものに止まり、長期間にわたり健康状態を維持するための指導法は確立されていないんです。しかもメタボの診断基準にすら疑義を唱えている人がいたほどですから、4条件がそろっていなかった。厚生労働省には、結核の時の成功体験があるから、メタボ対策もこの戦略で押さえ込めると考えたのでしょうが、これでは対策が上手くいかないのは無理もありませんでした」

「ポピュレーション・アプローチ」の可能性

「ハイリスク・アプローチ」だけでは機能しないとすれば、いかなる追加対策を講じればいいのか。今、予防医学の分野で最も高い支持を得ているのが「ポピュレーション・アプローチ」という考え方だ。これは、対象を健康へのリスクが高い人(ハイリスク集団)だけに限定するのではなく、広く一般的に健康状態がいい人を含む大勢(一般集団)を対象とするものだ。リスクの高い「個人」を狙い撃ちするのではなく、一般的な人を取り巻く「環境」や「原因の原因」そのものを狙い撃ちすることで、結果として全体の健康度を改善しようという意図がある。

第3章で紹介した足立区の糖尿病予防対策「ベジタベライフ」は、糖尿病患者だけではなく、区民全体の健康度を高めようという狙いで取り組まれた。その結果として、糖尿病患者だけでなく、区民全体の野菜摂取量が増えたという。「ポピュレーション・アプローチ」の典型的成功例といえるだろう。

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