健康格差の解消には「楽しい仕掛け」が必要だ WEBメディア全文公開プロジェクト 第4回

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「メタボ対策で用いられたハイリスク・アプローチは、病気の原因になる生活習慣に直接介入する、ある意味わかりやすい手法です。これに対してポピュレーション・アプローチでは、人がなぜ不健康な行動をとってしまうのか、まずその『原因の原因』を探ることから始めます。『原因の原因』が特定できたら、それを取り除いたり減らしたりすることによって不健康な行動を減らす取り組みです。これは一見、遠回りなやり方に捉えられがちですが、いわば『川下』で起きている現象だけに目を奪われることなく『川上』で起きていることに着目し、より根源的に『元を断つ』戦略といえます。また、集団全体に働きかけるポピュレーション・アプローチは、一人ひとりへの影響は小さいように見えますが、対象となる集団が極めて大きいため、働きかけが有効となる人の数も多くなり、結果的に大きな成果を挙げることができるんです」

「ポピュレーション・アプローチ」は、個人に負担をかけるのではなく、社会の環境そのものを変えることにより、より多くの人々が健康的な生活ができるようにする取り組みである。具体的にいえば、公共空間や職場での禁煙、タバコ代の値上げ、給食や社員食堂などでのヘルシーメニューの提供などがあげられる。

ポピュレーション・アプローチ先進国=イギリス

こうした「ポピュレーション・アプローチ」に、いち早く国をあげて取り組んでいるのが第3章でも取り上げたイギリスだ。

イギリスは1人当たり塩分摂取量を8年間で15%減少させて、高血圧を危険因子とする虚血性心疾患と脳卒中の10万人当たり死亡者数も4割削減した。これらの改善により、イギリス全体で年間約2300億円の医療費を節約したといわれている。背景には1980年からの20年間で国民全体の肥満が3倍に増えたことがある。1998年には女性の21%、男性の17%が肥満で、過体重を加えると、女性の半分以上、男性の3分の2がこれに該当した。このまま肥満を放置すれば、将来的な生活習慣病患者の急増を招き、医療費が膨らみ、財政を圧迫しかねないという危機感があった。

第3章では、製パン会社の協力を取り付け、パンに含まれる食塩摂取量を減らした話を紹介したが、減塩プロジェクトに協力したのは製パン業界だけではない。食品基準局は当時、パンだけでなく、チーズ、バター、ケチャップ、ポテトチップスなど85品目の食品について塩分量の目標値を設定、メーカーに自主的な達成を求めたところ、スタート時点で25社が協力を表明し、その後も有力企業が次々に名乗りをあげて、4年間で76社まで取り組みが広がっていった。

イギリスではさらに肥満対策として、ジャンクフードのテレビCMを規制することにも踏み込んでいる。ジャンクフードは、カロリーや脂肪分、糖分、塩分が多く、ビタミン類などの栄養素が少ない商品で、スナック菓子や清涼飲料水、ハンバーガーなどがこれに該当する。こうした露骨とも捉えられる国の介入に対しては、「国家が国民の健康をコントロールしているのではないか」といった批判的な意見もあるものの、国民が負担を強いられることなく、自然に健康状態が改善される効果が期待できるため、イギリスではおおむね好意的に捉えられている。

イギリスでは、こうした国を挙げた「健康格差」への取り組みが実を結び始めている。社会的困窮者が住む地域と富裕層が住む地域における平均寿命の差が縮まっているのだ。1999年から2003年では差が6.9年あったのに対し、2006年から2010年では、その差が4.4年にまで縮まったという結果が出ている。

日本でも、こうした国家レベルでの「ポピュレーション・アプローチ」の取り組みが求められるところだが、依然として活動は自治体や地域レベルに留まっている。その「胎動」と言える取り組みを紹介したい。

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