健康格差の解消には「楽しい仕掛け」が必要だ WEBメディア全文公開プロジェクト 第4回

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②スクワットで地下鉄乗車券をゲット メキシコ

メキシコでは、スクワットをわずか10回するだけで、地下鉄乗車券が無料でもらえる仕組みを導入している。首都メキシコシティでは、政府が地下鉄やバスの主要駅30ヵ所に専用の機械を設置した。センサーで動きを感知し、画面で回数がカウントされる。回数が増えるたびに、「毎日最低30分は歩きましょう」といったアドバイスが表示され、10回こなすと乗車券が画面の下から出てくる。

また係員から先着8万人に無料で万歩計を提供するというキャンペーンも行った。取り組みを導入した狙いはメキシコ人の肥満改善だ。メキシコの肥満は32%(2012年)とOECD加盟国ではアメリカに次ぐ水準で深刻化している。この状況を改善すべく、「運動すればタダになる」という仕掛けを取り入れたという。

トウモロコシ、豆、唐辛子の3つを基本とするメキシコ料理は、2010年に食文化として世界無形文化遺産に登録されている。そんな世界に評価される伝統料理を持つ国の人々には、是非とも健康的であってほしいものだ。

「ジャンクフードのように食べよう!」

③政策に「仕掛ける」力が必要

こうした「仕掛け」の力を「健康格差」対策のアプローチとして、積極的に取り入れるべきと考えているのが、東京大学大学院准教授の近藤尚己(こんどうなおき)さんだ。近藤さんは特に、企業のマーケティング手法には、商品に無関心な消費者に興味を持たせる力があり、その手法を「健康格差」対策に応用したいと考えている。その思いを強くさせたのが、健康食品をジャンクフードのようなパッケージで販売したアメリカの例だ。

2010年、「ジャンクフードのように食べよう!」というキャッチコピーを冠した野菜食品が、アメリカで話題になった。中に入っているのは「ベビーキャロット」という、ニンジンを一口サイズにあらかじめカットしたものだが、パッケージがまるで、ポテトチップスが入っているかのようなデザインだったのだ。

「ベビーキャロット」は、日本ではあまり知られていないが、アメリカでは家庭料理に使われたり、ディップにつけて、そのまま食べる人もいる。こうした野菜食品をジャンクフードに見立てる斬新な試みに取り組んだのは、食品メーカー「ボルトハウス・ファームズ」社だ。ニンジンの販売では、全米2大企業のひとつとされている。当時売り上げが伸び悩んでいた同社は、打開策を見つけられずにいた。

そこへCEO(最高経営責任者)としてやってきたのが、コカ・コーラの幹部だったジェフリー・ダンさん。ダンさんのもと、新たなマーケティング戦略として打ち出されたのが「ジャンクフード化」だった。ダンさんは、メディアに対し、「ソフトドリンクやスナック菓子のメーカーがするような、直感に訴えるキャンペーンをしたかった」と語っている。

「ベビーキャロット」は同年9月、一部地域で先行的に販売されると、売り上げは前年比1割増に転じた。さらに、2つの高校に「ベビーキャロット」の自動販売機を設置し、1袋50セント(約50円)で販売すると、わずか1週間で80~90パックが売れた。さらにこの話題を聞きつけた多くの学校が、同社に問い合わせてきたという。

この出来事は、「ボルトハウス・ファームズ」社にとっては、売り上げを伸ばすためのマーケティング戦略にすぎないが、近藤さんは、健康に無関心な層をいかに巻き込むかという面で、大変参考になる事例だと評価する。

「健康食品を売る際に『ビタミン豊富』『栄養たっぷり』などと健康面の良さを訴えても、反応するのは、健康に意識が高い人たちばかり。圧倒的多数に届けるには、むしろ『おいしい、楽しい、大好き』といったメッセージを伝えなければならないと気づかされました」

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