健康格差の解消には「楽しい仕掛け」が必要だ WEBメディア全文公開プロジェクト 第4回

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また介護予防効果という意味でも「憩いのサロン」は絶大な効果を発揮している。2007年から2012年までの5年間に「憩いのサロン」に参加した高齢者のデータを詳細に分析したところ、サロンに参加した人の要介護率は7.7%で、参加しなかった人たちの14%に比べて半分程度に抑えることができ、認知症のリスクについても、3割も抑制されたことがわかった。

費用対効果の面でも成果が出ている。武豊町は「憩いのサロン」の事業費に、年間630万円を投入しているが、その効果によって年間1500万円程度の介護給付費が削減できたと試算している。

このように、人のつながりを活かした、幅広い層への働きかけは、高リスク者だけを選別した手厚い健康指導よりもはるかに大きな成果を生む可能性があることを武豊プロジェクトは教えてくれる。

「仕掛け」が「健康格差」克服の可能性を高める

「健康格差」を解消するための具体的な対策を検討する上で、ボトルネックになるのが「所得が低い人は生活に余裕がなく、健康に気を配ることができない」ことだ。不健康な生活を送っている方々に対して、「塩分の取りすぎに注意」「甘いものはほどほどに」「野菜食中心の食生活を」「適度な運動を心掛けよう」と、いくら呼びかけても効果は出ない。実は、こうした健康に気を配ることができるのは、もとから健康問題に関心があり、健康意識が高い層ばかりであり、健康な人はより健康になる一方、そうでない人はどんどん不健康になるという、むしろ「健康格差」が拡大する方向に向かってしまう。

こうした対策のジレンマを乗り越えるため、イギリスや足立区に代表されるような新たな政策の流れや、「ポピュレーション・アプローチ」や「ソーシャル・キャピタル」といった公衆衛生学で培われた手法を駆使する取り組みを紹介してきた。共通するのは、個人の心掛けや努力を促したり、個人のモラルに訴えるのではなく、普通に生活しているだけで健康になる、むしろ何もしなくても健康になったり、不健康にならない環境を自然に作るという考えだ。

ここからは、いわば「仕掛け」の力を利用して「健康格差」を解消しようというアプローチで参考になる、世界各国の取り組みを紹介する。

①生鮮食品を買いやすく! アメリカ

アメリカ・ニューヨークでは、貧困地域に進出する生鮮食品店を税優遇し、新鮮な野菜をなるべく安く手に入れられるようにする政策を打ち出している。FRESH(健康支援のための食品小売拡大策)と呼ばれるこの取り組みは、生鮮食料品を買える店が少なく、肥満や糖尿病の率が高い貧困地域を対象に、スーパーマーケットが出店・改装・拡張を行う場合、税を優遇するなどの支援をする政策だ。

条件として、販売スペースの半分以上で自宅調理を想定した食料品を扱うこと、また3割以上で野菜、肉、魚、乳製品などの生ものを扱うことがあるが、これまでに20ほどの店がこの制度を利用している。FRESHを運用するニューヨーク経済開発公社が、対象店の利用客に実施した2015年2月の調査では、9割以上が「以前より新鮮な商品を買いやすくなった」、8割が「スーパーが開店したことで以前よりも果物と野菜を買っている」と答えたという。

ニューヨークは、世界中の有名シェフが店を並べ、腕を競うレストランの聖地だ。美食家たちが集まる一方で、貧困地域では生鮮食料品を手に入れられないことで健康問題が引き起こされている。こうしたアメリカの格差社会を象徴するような光景は、社会の分断を助長しかねない。政策の持続的な取り組みと効果に期待したいところだ。

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