健康格差の解消には「楽しい仕掛け」が必要だ

WEBメディア全文公開プロジェクト 第4回

近藤さんは自省を込めて、従来の「健康格差」対策は、「運動をしよう、野菜を食べよう」といった知識啓発や、健康へのリスクが高い人向けの個別指導に終始しがちだったと話す。しかしそこに、このようなマーケティング手法を取り入れることで、これまでとは違った効果的なアプローチができると考えている。

「人を動かすノウハウを山ほど持つ産業界と、公衆衛生の研究者、そして行政の三者がこれまで以上に連携することが必要です。企業は、魅力的なパッケージで製品を包み、『20%増量!』といった販売促進キャンペーンを行い、商品のブランドイメージと合わせて、消費者が思わず買いたくなる仕掛けを作っています。企業は製品が売れなければ経営に響くわけですから、たいへんな努力をしている。その叡智を政策にも活用することで、「健康格差」を解消する政策や公的サービス、商品を作るべきだと考えます。消費者に無意識のうちに選んでもらう『仕掛け』。これが鍵だと思います」

進化する「セルフ健康チェック」

④これまでの「健診」を変える。「セルフ健康チェック」の可能性

「健康格差」解消に、あの手この手の「仕掛け」が求められる中で、悩みの種となっているのが、健康診断の受診率だ。

健康診断は、自分の健康状態を検査することで、現状に気づき、食事や運動、病院での受診などの行動を通じて、生活習慣を見直したり、健康について考える大きなきっかけだ。本人はもとより企業にとっては従業員、自治体にとっては住民の状態を把握するためにも、必要な手続きだが、健康に無関心な層や、健康のために時間や費用を割く余裕がない人たちの受診率は伸び悩んでいる。

成人男女で1年間に1回も健康診断を受けていない人たちはなんと3600万人にものぼっている。その多くが専業主婦や自営業者、非正規雇用者などだ。こうした「健診弱者」とも言うべき人たちが、少しでも健康診断に足を運び、自分の健康状態を把握し、早期対応や病気の予防に力を入れてくれれば、自身の健康だけでなく、国の医療費も抑制されることになる。

こうした中、どのようにしたら健康診断に足を運んでもらえるか。注目の取り組みを行っている企業がある。「セルフ健康チェック」という健康診断サービスを行っている「ケアプロ」だ。

「セルフ健康チェック」は500円から血液検査を受けることができるのが強みだ。例えば、血糖値は500円、貧血などを判別するヘモグロビン量検査は3000円、脂質セット3000円、肝機能セット3500円などとなっている。

また、血液以外では、骨密度1000円、血管年齢500円、肺年齢500円となっており、結果はその場で数分でわかる。また、保険証や予約は不要で、誰でも気軽に好きな時に安価で健康診断を受けることができるのが魅力だ。

利用者の多くは、子育て中の主婦や病院に行く時間がない自営業者、フリーター、非正規雇用者、無保険者など、健康診断を1年以上受けていない「健診弱者」ばかり。検査をしてその場で異常がわかったことから、そのまま病院へ直行する人もいたという。

こうしたサービスがあれば、病院で健診を受ける時間がない非正規雇用者や、定年後に会社の特定健診の対象から外れた高齢者にとっても有効だ。健診さえ受けていれば、重症になっていなかったかもしれない人たちや、健診を受けるべき人が受けていない現状を考えると、「健康格差」を解消する鍵となる画期的なサービスとも考えることができる。

「ケアプロ」創業者で社長を務める川添高志さん(35歳)が「セルフ健康チェック」を立ち上げたきっかけは、慶應義塾大学看護医療学部時代に視察で訪れたアメリカのスーパーマーケットで「ミニッツ・クリニック」という簡易な健康診断サービスと治療をセットにした店舗を目にしたことだった。

「医師が常駐するのではなく『ナース・プラクティショナー』と呼ばれる医療行為もできる看護師の資格を持つ人が、最低限の診断と治療を、短時間で、通常の病院よりも安価に行うんです。アメリカでは医療費が非常に高く、病院に行くことを避ける人も無保険者も多いですから『病院に行くほどではないが、ちょっと診てもらいたい』というニーズを捉えた事業というわけです。これは面白い、と思って、そういうことが日本でもできないかと考えるようになりました」

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