中国で急成長!「iPhoneもどき」の破壊力 世界のスマホ市場から取り残される日本

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中国では、SIMフリー機のことを「空機価」と呼ぶが、基本的に新製品を評価するときはこの「空機価」が参考にされる。考えてみると、ファンクラブを作ってしまうような小米の戦略は、日本においてはほとんど意味を持たないことに気づく。なぜなら、日本はSIMカードを自由に取り換えて好きな携帯を使うことができないため、海外のように「空機価」に注目する意味があまりないのである。

しかし、これははたして健全なことなのだろうか。そうではないだろう。

今、世界の電子機器の主戦場は紛れもなくスマホになっている。そのスマホのマーケットをめぐって、アップル、サムスン、HTC、レノボ、ソニーなどがしのぎを削っている。1年や半年ごとに新モデルが発表され、スマホの持ち主は、そのトレンドを見極めながら、好みの新製品を買い替え、新しい機能を楽しんでいる。非常に変化が激しく、マーケットの占有率も毎年順位が入れ替わる戦国時代だ。

しかし、2年契約などで通信キャリアとの縛りがある日本で、機種の買い替えに踏み切ればペナルティなどで大変なことになり、他メーカーで魅力的な商品が出てもユーザーとしてはなかなか踏み切れない。

日本のスマホ市場への不安

日本でも一部SIMフリーを認めるようになってきているが、まだまだ「原則SIMロック、例外SIMフリー」の社会であり、海外のほとんどの国のように原則SIMフリーにしなければ、ふさわしい価格設定も難しいだろう。今の状況では、機体価格が限りなく安くなるように見える通常の契約を日本のユーザーが選んでしまうのも無理はない。日本の通信キャリアは「通信料によって本体の負担を軽くしている」と主張しているが、その真偽は怪しい。

携帯やスマホはハードであり、回線とは別のビジネスだ。回線は通信キャリアが苦労して整備したものなので、その対価を払うのは当然だ。しかし、別のメーカーが作った本体を通信料で負担するというのは、ビジネスとしてやはり不自然のように思える。

自宅でどんな電話機を使うのか、電話会社にお伺いを立てる必要がないのと同じように、回線料を払っていれば、原則としてスマホでもガラケーでもタブレットでも使うことができる道が、消費者には用意されているべきではないだろうか。

中国や台湾で小米のスマホを買って帰国してもSIMフリーの世界ではないため、容易に使って比べることができない。そうなると新機種の動向にも、本体の価格にもどうしても鈍感になる。その結果、日本という国全体が長い目で見て、激動するスマホのトレンドから、結局は取り残されていくことになってしまわないか、小米の急成長を見ているとさらに不安になってくる。

野嶋 剛 ジャーナリスト

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のじま つよし / Tsuyoshi Nojima

1968年生まれ。上智大学新聞学科卒業後、朝日新聞社入社。シンガポール支局長、政治部、台北支局長などを経験し、2016年4月からフリーに。仕事や留学で暮らした中国、香港、台湾、東南アジアを含めた「大中華圏」(グレーターチャイナ)を自由自在に動き回り、書くことをライフワークにしている。著書に『ふたつの故宮博物院』(新潮社)、『銀輪の巨人 GIANT』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『台湾とは何か』(ちくま書房)、『タイワニーズ  故郷喪失者の物語』(小学館)など。2019年4月から大東文化大学特任教授(メディア論)。

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