「以商囲政」作戦に出る中国の思惑
今年2月、台湾は長く禁止してきた人民元取引を解禁した。中国共産党と対立を続けてきた台湾が、人民元経済圏に飛び込むに等しい歴史的な決断だった。それからおよそ半年が経過し、今、台湾では人民元の預金や投資が爆発的な人気に沸いている。台湾はこれまで「米ドル」と「円」の影響下にあったが、チャイナマネー=人民元の存在感が急激に大きくなり、遠くない日に「元経済圏」に入りかねない様相だ。
台湾の町を歩いていると、銀行という銀行のすべてが店頭に掲げているのは人民元の宣伝ばかり。「台湾一の人民元優遇金利」「人民元理財商品」。そんなタイトルが踊る。
8月末時点での人民元の預金総額は850億人民元(1元=16円)を突破した。誰もが予想しなかった成長ぶりである。
かつての中国の台湾攻略は人民軍兵士による人海戦術が主要戦略だったが、今は札束戦術にすっかり様変わりしている。そんな中国の台湾政策は「以商囲政」と呼ばれる。やっかいな政治は後回しにして、経済面から攻めていき、経済を通じて政治も動かしていこうという考え方だ。人民元の解禁はまさに「以商囲政」の要となる作戦だ。
一方、台湾側にも狙いはある。台湾が有利な条件で人民元の取引業務ができるよう中国からできるだけ譲歩を引き出すことで、現在は香港が担っている人民元のオフショアセンターの地位を、いつの日か取って代わろうという野心を隠さない。
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