こうした価値観の逆転は、以前、香港でも起きた。香港ドルは人民元に対して1対1の建前なのに、実際は8掛けや9掛けで取引されていた。しかし、今では1人民元に対して香港ドルは等価で1.2香港ドルとなり、価値が逆転してしまった。
中国との関係改善を進める馬英九政権は、両岸経済協力枠組み協定(ECFA)を2010年に中国と結んで経済との一体化を選択した。人民元の解禁もその延長線上にある政策だ。それは、経済的に強大化する中国とは、うまく付き合っていくしか小さな台湾が生き残る道はないという現実的な判断である。
台湾で人民元が人気を集めているのは、なんといっても、台湾ドルとの金利差が大きい。どの国も、通貨安誘導のため、あるいは景気刺激のため、金融緩和を行っているが、台湾も例外ではなく、台湾ドルの定期預金の金利は1年ものでも1%未満だ。しかし、人民元では、3%近い金利がつく。おカネのことにはとかく敏感な台湾人が、この金利差に飛びついた格好である。同時に将来の値上がり期待もある。金利の高さと、将来の値上がりというダブルメリットが、人民元魅力の最大の理由なのである。
日本での広がりは今ひとつ
ところで日本での人民元預金は、なぜか台湾のように広がっていない。一時期、日本でも話題になったようだが、その後はあまり評判を耳にしない。
東京・赤坂にある中国銀行東京支店を訪ね、窓口で「人民元預金をしたいのですが」と聞くと、「ちょっと待ってください」と定期預金の金利表を見せてくれた。
3カ月もので0.3%、1年もので0.45%ぐらいだった。これでは日本円よりわずかにいいぐらいで、あまり魅力的とは言えない。人民元の定期預金は中国国内では1年もので3~3.5%、台湾や香港では2.5~3.0%ぐらいである。
基本的には金融庁の判断で、日本国内において人民元の金利は抑えぎみになっているらしい。確かに日本円が1年定期で0.1%の金利なのに、同じ日本で3%の人民元が自由に買えるようになれば、日本の金融界に大きなインパクトを与えるだろう。しかし、それにしても安すぎないか。せめて1~2%の間ぐらいで設定されてもいいような気がする。為替の値上がりだけが狙いとなると、中国政府の金融政策や世界情勢に左右されることになり、投資の計算も立たないから、それほど顧客心理を引き付けないのだろう。
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