台湾が“人民元化”で狙う、ポスト香港の座 人民元経済圏に飛び込む、台湾の思惑

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加えて、台湾人が人民元所有を正当化するもうひとつの理由は、多くの台湾人が日々のビジネスで中国と関係している点にある。中国への長期・短期滞在は常時100万人に達すると言われる。そんな台湾人にとって、中国に渡ってから人民元に換える手間も省けるため、手元の資金を人民元に換えておこうというモチベーションが働きやすいのである。

台湾で人民元の流通が増えるほど、中国にとっては台湾政策上のカードになることは間違いない。中台の経済緊密化もさらに進むはずだ。何より中国を象徴する人民元への拒否感を軽減できることは、台湾の統一工作で大いに役立つと中国指導部は計算している。

香港に代わるオフショアセンターを狙う

一方、台湾の馬英九政権が目指すのは、台湾が、香港に代わって人民元のオフショアセンターになることである。これまで、香港が人民元オフショアセンターとして地の利や制度の利などを生かして先頭を走ってきたが、シンガポールやロンドンなどの人民元金融市場の拡大に躍起で、オフショアセンターの地位をめぐる陣取り合戦が始まっている。

先行する香港の地位は1年や2年では揺らがないが、中台間の活発な貿易や中国人観光客の年間200万人を超える台湾訪問、そして、台湾の人民元業務では地元企業に対する人民元の融資が認められていることなど(香港では認められていない)を考えると、3年後には香港の有力なライバルとなっている可能性は低くないと、台湾の金融当局者は自信を深めている。

また、台湾にとって有利な点は、中台関係の改善が中国の指導部にとって優先順位の高い課題であることだ。しかも、台湾に対して多くの利益を提供することは、台湾の世論の中国に対する親近感を高めると同時に、中台関係の密接度を経済面から高めていくという長期戦略にも合致している。

香港は1997年の香港返還を受けて、香港人の同化政策のために香港に対して優先してオフショア人民元取引の先行実施を認めてきたが、香港への優遇はすでに役割を終えたという見方が強い。今後は台湾をはじめ、シンガポール、ロンドンなど、人民元オフショア取引の拡大を狙う他国・地域から追い上げられる立場になるだろう。

野嶋 剛 ジャーナリスト

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のじま つよし / Tsuyoshi Nojima

1968年生まれ。上智大学新聞学科卒業後、朝日新聞社入社。シンガポール支局長、政治部、台北支局長などを経験し、2016年4月からフリーに。仕事や留学で暮らした中国、香港、台湾、東南アジアを含めた「大中華圏」(グレーターチャイナ)を自由自在に動き回り、書くことをライフワークにしている。著書に『ふたつの故宮博物院』(新潮社)、『銀輪の巨人 GIANT』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『台湾とは何か』(ちくま書房)、『タイワニーズ  故郷喪失者の物語』(小学館)など。2019年4月から大東文化大学特任教授(メディア論)。

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