日本の空を覆い始めたパイロット不足の難場 今の養成スタイルでは需要を埋めきれない

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その状況は東南アジア諸国の航空会社でも同様で、その機種に限定して即戦力となるパイロットを厚待遇でリクルートしている。また、一方でシンガポール航空などのように自社での新人養成を積極的に進めているなど、各社それぞれ自社の体力に応じてパイロット養成に力を入れている。

ちなみに中国においては現在自社養成を行っているのは中国南方航空1社のみである。

10年ほど前と同じ手は使えない

ひるがえって日本を見ると、今後は2030年問題が指摘されている。現役パイロットの年齢分布は現在40代後半から50代前半に非常に大きな山があり、この人たちが2030年以降の10年間、毎年250人規模で退役する。しかもそのほとんどが機長である。

パイロットの大量退役問題は団塊の世代が退役を迎えた10年ほど前にも起きたのだが、その時はパイロットの身体検査基準を緩和し、定年を60歳から段階的に68歳まで延長することによりある程度はしのぐことができた。しかし、今度はもうその手は使えない。

解決策がないわけではない。

ボーイング社は、先頃、自律飛行システム(いわゆる無人機)の開発を手掛けるAI企業への投資を発表し、世界のパイロット不足の解決策の1つと位置づけている。人間の英知による技術の進歩は限りなく、しかもその速度は速い。しかし、無人機の到来に期待して、はたしてそんな時代が到来するのを指をくわえてじっと待っていられるのか。

とにかく航空界に人を集めることである。それも機長になれる有為な人材を。パイロットが魅力ある職業であることは言を俟(ま)たない。その証拠に自社養成パイロットの競争率は現在では300倍から400倍といわれている。多くの若者はできることならパイロットになりたいと思っているのに、それを阻んでいるのはパイロットになるためのコストとリスクだ。

自社養成はこのコストとリスクの双方を軽減してくれる最良のシステムであると思われる。確かに航空会社の負担は一時的に増えるものの、航空業界の発展のための投資と見れば安いものである。国も相応に支援することが不可欠である。

また、これまで定員割れしていた私大での養成は近年定員を充足するようになり、今後はさらに期待できる。しかしながら、4年間の学費を含め、2000万~3000万円の費用を要することからさらなる奨学金制度の充実が求められる。

航空大学校は養成規模を一気に5割も増やしたが、教官の確保や機材の調達などの教育環境が整い、安定的に質のよいパイロットを養成するまでには相応の時間を要するとみられる。

米国には自社養成の制度は存在しないが、業界最低賃金のメサエアーは時給を22ドルから40ドルに引き上げ、さらにボーナスや長期の契約などを提示することにより人材を確保しようとしている。この例を見るまでもなく、多くの若者に夢だけでなく現実的な報酬と安定的な待遇を与えなければ有為な人材は確保できないということだ。

日本では、過去にあったようにパイロット不足を外国人パイロットに頼るという選択肢は最早ない。

風間 秀樹 航空経営研究所 主席研究員

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かざま ひでき / Hideki Kazama

一橋大学社会学部卒。日本航空の元B747機長。飛行時間1万1000時間。アジア・オセアニア路線室長、ヨーロッパ路線室長を歴任。乗員として初めて経営企画室に所属。またパイロット採用のグループ長として日本航空の乗員採用に携わる。2009年6月に退職。現在は拓殖大学教授。

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