日本の空を覆い始めたパイロット不足の難場 今の養成スタイルでは需要を埋めきれない
そもそもパイロット不足は日本だけの問題ではない。世界的な問題だ。
ボーイングやエアバスは将来の大幅な航空機需要の増加に伴ってパイロット、整備士の需要が大きく増えると予測している。たとえばボーイングは2017年から2036年までの向こう20年間に全世界で63万7000人のパイロットが不足するとの試算を発表している。
航空機メーカーの期待値が当然含まれ、まともにとらえるわけにはいかないものの、すでにパイロット不足が現実の問題となっていることには間違いない。
ただ、「世界的なパイロット不足」の問題は国により、地域により、また航空会社各社によりそれぞれ違う。
アメリカの現状は?
航空大国であるアメリカの現状を見てみよう。
戦後、日本の民間航空が始まったときには、多くの米国人パイロットが機長として操縦かんを握っていたものだ。米国は世界へのパイロット供給源でもあった。
しかし2008年のリーマンショックを境に米国のパイロット事情は大きな変化を遂げることになる。景気後退に伴う需要の低迷を受けて新人パイロットの給料がコンビニの従業員並みに落ち込んでしまったのだ。1カ月の給料が1650ドル。日本円に換算すると約16万5000円である。
これではいくら将来の夢を追いかける若者でも二の足を踏んでしまうのは当然で、アメリカの若者達は徐々にパイロットへの道をあきらめていくことになる。
さらにこの流れに追い打ちをかける法改正が2013年に施行された。その内容は、これまで飛行学校を卒業し、事業用操縦士免許(CPL)を取得すれば小さな航空会社の副操縦士として乗務が可能であったものが、今後は機長資格(ATPL)を保持していないと副操縦士としても乗務できないというものだ。CPLを取得するのに通常であれば250時間の訓練飛行時間が必要だが、機長資格となると最低でも1500時間必要となる。これを自己負担で埋めようとすれば、その額は1000万円以上である。
こうして、米国ではピーク時の2008年と比較すると自家用操縦士だけでも約6万2000人が減少しており、その数はパイロット総数の1割以上である。すなわち、新人のパイロットが育たなくなってきているということである。
その結果全米500空港で10~20%の減便を強いられ、運休となった空港は18を数える。
この非現実的な法改正が行われた背景には2009年に米国で起きた2つの航空機事故が関係している。その1つは映画にもなったハドソン川への不時着水事故。この事故は幸い死傷者は出なかったが、引き続いてニューヨークで起きたコルガン航空機事故が致命的であった。パイロットの不適切な操縦が原因で墜落し、地上にいた人をも巻き添えにして50人の犠牲者が出てしまったのだ。
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