ラッセル・クロウも批判する豪州の難民施設 閉鎖した難民問題がさらに泥沼化

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さらに、ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン新首相は、人道的な観点から「島に収容されている150人の難民をニュージーランドが引き受ける用意がある」と呼びかけたものの、オーストラリアのマルコム・ターンブル首相は、先にバラク・オバマ政権との間で合意に至ったアメリカとの難民交換協定を優先しなければならないと、申し出を現時点で断った。

これに対し、野党のビル・ショーテン労働党党首はニュージーランド政府の呼びかけを受け入れるべきだと発言。さらに緑の党党首も「マヌス島の収容施設は人道的観点から破綻している。ニュージーランド政府のほうが真摯に対応している」と政府の対応を強く批判した。

先に合意されているアメリカとの難民交換協定においては、ドナルド・トランプ大統領が就任後、ターンブル首相との電話会談で「バカな合意だ」と批判。先月ようやく、アフガニスタンやソマリアなどからボートで逃れてきた54人の難民が選抜されてアメリカに向かったものの、当初受け入れ予定の1250人(ナウル、マヌス島両方からの受け入れ予定合計人数)が今後いつどのように受け入れられるかなどは未知数だ。

ラッセル・クロウ氏は批判に対し憤りも

ラッセル・クロウ氏のツイッターでの宣言はその後、さまざまな波紋を呼んでいる。一部のツイッターユーザーから、「事態をよく知らないくせに」などの批判を受けたラッセル・クロウ氏がすぐに反論。「どうぞ罵(ののし)るがいい、私を無知だと呼べばいい。オーストラリアがマヌスに収容された難民たちにしてきたことは恐ろしいことであることに変わりない」。

こうも続けた。「もしもマヌス島に収容されている人たちがあなたの兄弟、叔父、父、もしくは息子だったら……世界はオーストラリアをウォッチしているし、われわれはクズのように見られているはずだ」と隠しきれぬ憤りをあらわにし、次々にリツイートされている。世界中にこの事態は知られることとなり、各地で「難民を救い出せ」などの言葉を掲げて立ち上がる市民たちの姿もまた、SNS上で瞬く間に拡散されている。

映画俳優ラッセル・クロウ氏のツイッターより

スーダンからボートで命からがら逃れてきたという24歳の男性は 、すでに難民認定を受けているものの、いまだに施設に収容されたまま移住先も決まらない。

マヌス島に収容されたのは20歳のとき――以来4年もの間を施設内で家族と離れ離れになって孤独に過ごしてきたという。 仲間うちでおカネを出し合い入手したというスマートフォンを使い、 電波状況のことごとく悪いなか筆者にSNSを通じて訴えた。「 僕にはもう夢はありません。輝かしいはずの黄金の時代はすべて奪われてしまいました」。

収容中のスーダン難民から筆者に送られてきたメッセージ 11月7日

この事態は日本ではほとんど報じられていない。しかし、世界を揺るがす難民問題は中東やアフリカ、欧州などだけではなく、国際社会に対してどう向き合い対応するのか――アジア諸国にも、その態度が注視されている喫緊の課題である。

海野 麻実 記者、映像ディレクター

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うんの あさみ / Asami Unno

東京都出身。2003年慶應義塾大学卒、国際ジャーナリズム専攻。”ニュースの国際流通の規定要因分析”等を手掛ける。卒業後、民放テレビ局入社。報道局社会部記者を経たのち、報道情報番組などでディレクターを務める。福島第一原発作業員を長期取材した、FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『1F作業員~福島第一原発を追った900日』を制作。退社後は、東洋経済オンラインやYahoo!Japan、Forbesなどの他、NHK Worldなど複数の媒体で、執筆、動画制作を行う。取材テーマは、主に国際情勢を中心に、難民・移民政策、テロ対策、民族・宗教問題、エネルギー関連など。現在は東南アジアを拠点に海外でルポ取材を続け、撮影、編集まで手掛ける。取材や旅行で訪れた国はヨーロッパ、中東、アフリカ、南米など約40カ国。

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