VAIO1兆円計画の舞台裏 石田佳久 ソニーVAIO事業本部長に聞く

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ここで生まれた最新機種、タイプZは、1・35キログラムの軽量ボディにハイエンドデスクトップ並みの高性能を持ったA4ノートだ。増加する一途の部品を小さい基板に実装するために、通常はCADで自動化している配線工程を手作業で行うなどしており、長野でなければ実現できない製品という。8月の発売以来、20万~50万円という高値にもかかわらず、販売は国内外で好調という。

ただ、製品価格の下落は速い。今日のハイエンド製品も3カ月後には普及品になる。EMSのキャッチアップも著しい。今後も斬新なブランドイメージを掲げるなら、価格下落とキャッチアップの速度を上回るスピードで、エッジの効いた製品を生産し続けなければならない。

あるエンジニアはつぶやく。「松下の製品を分解すると、僕らの選択はまずいんじゃないかって思うことがある」。松下電器産業は依然内製志向が強いが、このエンジニアの目には松下の製品がソニーよりも進んだ技術で作られているように映るのだという。林氏も「VAIOらしくあるためには、もう一度わがままに作る必要がある」と漏らす。「液晶テレビも低価格帯は思い切った生産外注を検討していく」(経営幹部)という流れの中、現場の第一線は今も揺れ続けている。

就任直後、中鉢良治社長は「メークマネーと社員の心のV字回復が私の仕事だ」と宣言した。この相克する命題を同時並行させる難しさ。それをVAIOが物語っている。

<Interview>

「人ができないことをやるソニーの伝統」

1兆円を目指すのは、VAIOがソニーの柱の一つになる、という意味です。

石田佳久 ソニーVAIO事業本部長

業界1位を目指す位置にはないが、(東芝に匹敵する)5位ぐらいは目指していい。水平分業については、VAIOではこういうやり方をしている、よいことは横展開しようと社内で話している。液晶テレビも外部に一部生産委託します。

(EMSの)ものづくりが上手になると、悩みもある。ソニーが技術供与すると、ノウハウが他社に出るかもしれない。ブランドとして出てくる可能性もある。EeePCの登場で、(新たな別の)市場ができちゃったなという感覚はある。小さくて安いモノを作れば売れるのはわかっていても、それを作っても儲からないからやらなかった。

ただ消費者が、そういう製品、市場があると気づいてしまったのだから、そこでソニーがやるのならどんな製品がふさわしいか、という検討はしている。年末に製品が出るか? さあ、わかりません。

今、全員が最高のモチベーションで仕事しているかというと、そうでもない。それは隠すつもりはない。ただ、新しいモノを作りたい、人ができないことをやりたいという気持ちは、VAIOに限らずソニーの伝統。それは変わっていないし、これから(VAIOの新製品としても)いっぱい出る。期待してください。

(撮影:谷川真紀子 =週刊東洋経済より転載)

杉本 りうこ フリージャーナリスト

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すぎもと りうこ / Ryuko Sugimoto

兵庫県神戸市出身。北海道新聞社記者を経て中国に留学。その後、東洋経済新報社、ダイヤモンド社、NewsPicksを経て2023年12月に独立。

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