VAIO1兆円計画の舞台裏 石田佳久 ソニーVAIO事業本部長に聞く

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頭打ちの日本国内でも法人市場に本格参入。競合の少ない法人向け軽量モバイルノートを需要調査結果を基に開発、売り込んでいる。

市場主導の成長戦略。それはVAIOにとって大きな“変節”である。

「かつては、何が売れるか、市場はどうかより、自分が作りたくて他社にはまねできないものを考え、作っていた」と明かすのは中堅エンジニア。ユーチューブが登場するはるか以前に、付属のビデオカメラを使い簡単に動画のウェブ配信ができる機種を発売したのもVAIOだ。

「(市場を意識せずに作れたのは)VAIOが駆け出しの小さな事業部門で、ほかに稼いでくれる事業が山ほどあったから」。VAIOの元企画担当で、現在はベンチャー企業を共同経営する宮崎琢磨氏は語る。

だが安藤国威前社長に、「こんなに売れるとは思わなかった」と言わせるほどVAIOがヒットし、一方でテレビなど従来の収益事業が傾いた03年ごろから、自由な風土は急速な変化を迫られていく。あるエンジニアの表現を借りれば、「やんちゃ坊主が大人になることを迫られた」。要は、他事業に代わって稼げるよう変革を迫られたのだ。

そして製造の現場では、さらにドラスチックな方向転換があった。「一言で言うなら筋肉質になったということ。リダンダント(余剰)なものを絞り、自社と外の線引きをはっきりさせた」と石田本部長。内製品を絞り込む一方で、EMS(電子機器製造請負サービス)業者への製造アウトソーシングという水平分業モデルを大胆に進めたのだ。

内製はわずか2割、技術水準を高める製造請負会社

今やソニーが内製するVAIOは2割にすぎない。残る8割は台湾のEMS業者2社が中国などで受託生産している。高付加価値を志向してきたVAIOにとっては、生産外注は実は大きな意味を持つ。それはEMS側の言葉を聞いても明らかだ。

VAIOの最大の外注パートナーである鴻海精密工業(フォクスコン)の関係者が本音を明かす。「ビジネスとしては、数千万台の受注があるHPのほうが魅力的だ。たった数百万台のVAIOでは正直大して儲からない。それでも受注するのは、われわれの技術水準が高まるからだ」。

07年末から世界のパソコン市場を席巻している台湾アスーステック(華碩電脳)のEeePC。日本メーカーが独占してきた超小型モバイル機で約5万円という破格の低価格を武器に参入し、追随できない日本勢を圧倒している。このアスースこそ、数年前までEMSとしてVAIOを生産していた企業だ。EeePCを追って発売されたHPやデルの同様の機種も、実際にはフォクスコンなどのEMSが生産する。

そもそもパソコン業界では、半年に1度という速いサイクルで新製品を投入するため、余剰部品や過剰在庫を回避する手段としてアウトソーシングが行われてきた。逆から見れば、EMSは半年に1度のサイクルで着実に技術力を高めてきたのだ。

「EMSにできることと、ソニーにしかできないこと。それを議論し尽くした結果が、長野工場での開発・生産体制だ」。ノートブックPC事業部の林薫統括課長は言う。内製する2割のVAIOは基本的にハイエンドの新機種。そのすべてが、ソニー系列内に唯一残されたパソコン生産拠点、ソニーイーエムシーエス・長野工場で作られる。ここではソニー全体で最も先進的とされる開発・生産体制が組まれている。

長野工場には05年ごろから、企画や設計、品質管理など前後する工程のエンジニアが長期駐在している。従来、生産以外の工程はパソコンに限らず東京で行われていたが、「スタート時から製造と意見を共有し足並みを合わせることで、超小型化など技術的に難しいものや、こだわりの必要なパーツを円滑に作る体制を実現した」(林氏)。いわば開発・設計から工場へとリレー方式だった工程が、二人三脚に変わった格好で、水平分業時代にソニーが選んだ一種の工場回帰ともいえる。

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