このままでは伝統の味が失われてしまう。父親や番頭さんが苦労して育てた昆布問屋です。跡取りの血が騒ぎました。体も永年の放蕩で悲鳴を上げています。ちょうどよい潮時と、家業に専念することを決意します。
もともと料理は好きだったので、8年間フランス料理の学校にも通い、調理師免許、ふぐ調理師免許も取得しました。ここから喜多條社長の挑戦が始まります。
昆布だしのうまみは世界標準だ!
「味覚には、5種類あるのをご存じですか?」と喜多條社長から聞かれました。「甘味、塩味……」と詰まっていると、「あとは酸味、苦味で4つ。それに近年、昆布だしを代表とする『うま味(UMAMI)』が加わって5つになりました」と教えてくれました。

わが国では古くからなじみのあった「UMAMI」が世界的に認められたのは、2000年になってアメリカの学者が、舌にある味を感じる器官・味蕾(みらい)にグルタミン酸受容体を発見してからです。「UMAMI」が第5の味覚として認められ、その素(もと)になるのが昆布であることも同様に認められました。2013年に「和食」がユネスコの世界無形文化遺産となったことから、「UMAMI」は今や世界料理の共通語となっています。
その昆布のうまみを最もうまく引き出しているのが、大阪です。しかし、日本で生産される昆布の90%以上は北海道で収獲され、大阪では昆布の水揚げはありません。それでも昆布問屋は大阪に集中しています。理由は、江戸から明治時代にかけ運航した貨物廻船、いわゆる北前船(きたまえぶね)にあります。
北海道から日本海、瀬戸内海を経た西回り航路で、昆布は上方の食文化に流れ込みました。「大阪人は“もったいない”精神が発達しています。乾物昆布の戻し汁まで利用した結果、大阪の味が生まれました」(喜多條社長)。海上航路の発達となにわ商人の“始末の心”が、大阪の味を生んだのです。
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