甲子園、何が広陵・中村の記録連発を導いたか 出場校に浸透した「正々堂々」野球との関係

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明徳義塾の馬淵監督が星稜の松井秀喜を5連続敬遠し、勝利をつかんだのは1992年夏のこと。このことで明徳義塾と馬淵監督が"全国的"といっても過言でないほどの非難にさらされて以降、「勝つために作戦を選ばない」ことは難しくなったのではないかと思う。

フェイスブックやツイッターなどのSNSが発達した昨今、何かあれば、ネットで連鎖的に批判の声が大きくなる。だから、この傾向は年々、顕著になっている。

2014年夏には東海大四(北海道)の投手の超スローボールが物議をかもしたが、これは特段、不正なものではなかった。しかし、「勝つために作戦を選ばない」ことを「卑怯なやり方」と等しく思う人は、明らかに増えている。

SNS時代に変化した選手とファンの心理

今年も、ツイッターなどで論争を呼んだ一戦があった。8月19日に行われた大阪桐蔭(大阪)と仙台育英(宮城)の3回戦で、大阪桐蔭の1塁手に脚がぶつかった6番打者の走塁が不自然ではなかったか、と問題視されたのだ。それも当然のことだったのだろう。「勝つためなら何をやっていいというわけではない」。いまの高校野球ファンならそう考えるからだ。

もし、打率7割で1試合に1本ホームランを打つ強打者がいれば、「まともに対戦したくない」と相手バッテリーや監督が考えるのが自然だ。計算上、その試合で2本以上ヒットを打たれ、なおかつ1、2本が長打になるからだ。それだけ打たれれば当然、勝つ確率は低くなる。だから、昔のピッチャーはボール球を続けたり、あるいは体に当たりそうなボールを投げたりと、心理作戦を仕掛けたりしたものだ。

しかし、今年の夏の甲子園はどうだったか。広陵と対戦した各チームの投手陣は、今大会を代表する強打者、中村奨成から逃げなかったし、正々堂々と投げ込まれた球を広陵の3番打者は力強く打ち返した。中村が6試合で放った17打点、6本塁打、43塁打は1大会での記録を更新する最多記録、安打数19、2塁打6はタイ記録となった。

中でも、準決勝の天理(奈良)戦で打った6本目の本塁打は、清原和博がPL学園(大阪)時代に打ち立て、以来32年間破られずに「不滅」とも言われていた大記録を塗り替える一発だった。中村の注目度は飛躍的に上がり、今秋のプロ野球ドラフト会議で1位指名が確実視されている。

日本人選手がメジャーリーグで活躍するようになってから20年あまり。「力と力の勝負がしたい」と言って野茂英雄(元ロサンゼルス・ドジャース)は1995年にアメリカに渡ったが、彼の望んだ世界が甲子園にも生まれつつある。

「正々堂々の時代」はこれからも続くだろう。そう強く感じさせる大会だった。その象徴となったのが、やはり中村だ。

ストライクが来れば初球からフルスイングをする姿は見事と言うしかなかった。果敢極まりないバッティングが6本のホームラン、2塁打6本という際立った結果につながった。

打球の鋭さは他校の野手を驚かせるほどだった。決勝の花咲徳栄戦では、綱脇慧、清水達也の両投手が真っ向勝負を挑み、中村は2三振を喫したが、この対戦は大会の名場面に挙げられるだろう。

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