甲子園、何が広陵・中村の記録連発を導いたか 出場校に浸透した「正々堂々」野球との関係
高校野球「夏の甲子園」大会は8月23日、花咲徳栄(埼玉)が広陵(広島)を14対4で下して優勝し、幕を閉じた。
第99回を迎えた今年の大会、試合後の監督談話でこんな言葉を一体、何度聞いたことだろうか。「完全に力負けです」「相手チームの力が上でした」――。
明徳義塾(高知)の馬淵史郎監督も、秀岳館(熊本)の鍛治舎巧監督も、今大会最高齢だった75歳の大井道夫監督(日本文理)もそう言った。百戦錬磨、海千山千の名将たちは皆一様に、悔しさをにじませながらも潔かった。しかし、私はそこに少しばかり違和感を覚えた。
「力勝負」に様変わりした高校野球
なぜなら、真っ正面から全力でぶつかり合うような戦い方をしたら、選手層が厚く、力のあるチームが勝つのは当たり前。それをさまざまな作戦を駆使して覆すのが野球、とりわけ高校野球の醍醐味ではないか。そう思うからだ。
かつて、昭和の甲子園では数多くの"仕掛け"が試合中に行われた。「怪物」の異名を欲しいままにする超高校級の選手、あるいは「東の横綱」などと呼ばれる優勝候補の筆頭校を倒すために、弱者はさまざまな知恵をひねったものだ。今では反則に分類される裏技もあったし、ピッチャーを疲れさせるためにできるだけ多くの球を投げさせる「待球作戦」に徹するチームもあった。
一例を挙げれば、1979年夏の甲子園、箕島(和歌山)と星稜(石川)との3回戦。延長18回まで勝負がもつれたのは、14回裏に箕島の3塁ランナーが「隠し球」でアウトになったから。隠し球とは、ランナーに気づかれぬように野手がボールを隠し、アウトを狙うトリックプレーだ。
野球の面白さ、特に甲子園の魅力のひとつは圧倒的な戦力を持つチームに戦力が劣るチームが勝つところにあった。巨象をアリが倒す瞬間に人々は熱狂し、歓喜したものだ。
しかし、真っ向勝負が続いた結果、今年の夏の甲子園では「ジャイアントキリング(大物食い、番狂わせ)」はほとんどなかった。それは、正々堂々と戦うことを期待されているから。いや、もっと正確に言うならば、それ以外の戦い方をしづらくなったからではないかと思う。
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