甲子園、何が広陵・中村の記録連発を導いたか 出場校に浸透した「正々堂々」野球との関係

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中村が優れているのは、バッティングだけではない。強肩を誇る捕手として遠投は120メートル。2塁までの送球タイムは、プロでも2秒を切れば合格ラインと言われるところ、平均1.85秒。ランナーが少しでも隙を見せれば矢のようなボールを投げる。

準決勝の天理戦では、スクイズを俊敏な動きでダイビングキャッチした。そのプレイひとつひとつで甲子園が沸き、そのあとにざわめきが残った。ときに笑顔でピッチャーを励まし、鋭い返球で鼓舞する。捕手としても、どこまでも「正々堂々」のスタイル。野村克也のように、打者に話し掛けて集中力をかき乱す「ささやき戦術」に代表されるような、日本の古い時代にいたタイプのキャッチャーではないのだ。

「俺のために太鼓を叩け、その分俺が打ってやる!」

中村は、ベンチに入れずにアルプススタンドでの応援に回った仲間にこのメッセージを送った。この言葉ひとつをとっても、彼が人の心を動かす力を持っていることがよくわかる。

来年で100回を迎える「夏の甲子園」

大阪桐蔭の春夏連覇が注目された夏の甲子園は、花咲徳栄の埼玉県勢初の全国制覇で幕を閉じた。10年ぶりに決勝に進出した広陵も、勝てば初優勝だったが、惜しくも全国の頂点にはあと一歩届かなかった。

隠し球も、サイン覗きも、待球作戦もない「正々堂々」の甲子園。そこで試されるのは、お互い本当の力をむき出しにして、正面からぶつかる姿勢だ。決勝での広陵・中村と、花咲徳栄の二枚看板である先発の綱脇と4回から継投した清水との真っ向勝負がそのことを教えてくれた。

昔の高校野球があれば、今の高校野球もある。ただ、それでもひとつ、変わらないのは、夏空の下で白球を追って、ひたむきに野球に臨む球児たちの姿だろう。来年、夏の甲子園は第100回大会という大きな節目を迎える。そして、またきっと、どこまでも熱い夏になる。

(文中敬称略)

元永 知宏 スポーツライター

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もとなが ともひろ / Tomohiro Motonaga

1968年、愛媛県生まれ。立教大学野球部4年時に、23年ぶりの東京六大学リーグ優勝を経験。大学卒業後、ぴあ、KADOKAWAなど出版社勤務を経て、フリーランスに。直近の著書は『荒木大輔のいた1980年の甲子園』(集英社)、同8月に『補欠の力 広陵OBはなぜ卒業後に成長するのか?』(ぴあ)。19年11月に『近鉄魂とはなんだったのか? 最後の選手会長・礒部公一と探る』(集英社)。2018年から愛媛新聞社が発行する愛媛のスポーツマガジン『E-dge』(エッジ)の創刊編集長。

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