感動させるということは、こういうことだと思います。心と心が触れ合うとき、人は感動するのです。口先で褒めまくる、物やおカネを与える、いい制度をつくるといった次元を超えなければいけません。いわば社員の人格を認めてすべてを肯定するときに社員は感動し、社内は一丸となって燃えるような組織になるのです。
社長が自分で入社させておきながら、ウチの社員は能力がない、バカだアホだと社員の人格を否定するに至っては、天に唾するようなもの。己の出来の悪さ、人格の低俗さを天下に公表しているのと同じです。どんな人間にも無限の価値があるし、誰もが高い能力を持っているのだ――。社長が、そういう謙虚な思いをもって社員と接すれば、そこに社員との心と心が触れ合いが生まれるのです。
仏教に「山川草木悉皆成仏(さんせんそうもくしっかいじょうぶつ)」という言葉があります。山や川、草木のようなものまで仏性を有しており、成仏する、まして人間をや、ということでしょう。あるいは、「一切衆生悉く(いっさいしゅじょうことごとく)みな如来の智慧徳相(ちえとくそう)を具有す」と言っています。そのような信念を持って、社員と接するとき、感動が自然に醸成されてくるのではないでしょうか。
本田宗一郎さんとの思い出
本田宗一郎さんといえば、言わずと知れた「ホンダ」(ホンダ技研工業株式会社)の創業者です。ホンダがトヨタ、日産自動車と並んで、今日あるのは、この創業者のおかげです。本田さんは、創業から生涯にわたって一技術者に徹し、いつも工場で作業服を着て、社員と同じように振る舞っていました。どんな社員と接しても小馬鹿になどせず、ともに研究に、技術開発に取り組んでいました。その本田さんの態度が、ホンダの社員の心をとらえ、今なお脈々と、その感動が流れています。だからこそ世界のホンダとして大きな発展をしているのではないでしょうか。
私が大学生の頃、ある用件で本田さんに会いに行ったときのことが思い出されます。このとき、本田さんは応接間に作業服で現れ、若造の私にも気軽に(口調はそれなりに乱暴でもありましたが)、実に丁寧に話をしていただいたことを感動をもって思い出します。
口先・知識・理屈だけで経営をしていては、成功はおぼつきません。経営者たるもの、このことを肝に銘じるべきだと思います。
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