このような言葉に接したときには感動した私ですが、正直なところ、子供たちにはできるだけ大きな会社、有名な会社に入ってほしいと願っていました。信念を貫くにも、意味ある社会貢献も、趣味に凝るのも、まず、経済的な保証あればこそだと信じて疑いませんでした。経済的な困窮で信念が挫折するどころか、家庭まで壊れたり、人生が破滅していく事例には事欠かない時代に育ったものですから。
ここで言う大きな会社、有名な会社と申しますのは、安定企業、給料もいい企業を指します。親子で共有できるプライドという問題も、なかったといえばウソになります。まさに今回のご両親と同じ、「幸せはまず、経済的な安定から」という価値観です。
そしてそのような価値観の下、子供たちを中高一貫校に誘導したのも同じですが、その先が少し違います。私は(給料をくださる)会社ならどこでもいいと思っていました。何よりも大企業には望んで入れるものではありませんし、優秀で努力を怠らなかった学生がゴマンといる中、あとは縁と運だと割り切りました。それ以上に子供にプレッシャーを与えることは、誰の利にもならないことを知っていましたから。
もしフォードが家業の農業を継いでいたら
親の反対を押し切って自分の信念を貫き成功した有名人はザラにいますが、私は決まって2人の人を思い出します。
ひとりはヘンリー・フォードです。父親は農場を継いでほしかったそうですが、近所の人の時計まで分解して組み立て、修理ができることで評判だったヘンリー・フォードは農場経営を嫌い、町の見習い機械工として出発しました。親の言いなりになっていたなら、自動車の生みの親がカール・ベンツなら、育ての親がヘンリー・フォードといわれるほどに自動車の大衆化に成功し、大富豪となった彼は、この世に存在しなかったことになります。
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