民事は金銭の問題ですが、労基法違反はそれに留まらず、刑事の問題にもなりえます。ここでの刑罰は罰金刑が多いですが、これは軽微な交通違反のいわゆる罰金とは異なり、「前科」の対象にもなります。長時間労働における刑事処分としては、時間外労働割増賃金(残業代)未払いや36(サブロク)協定違反によるものが多く見られます。
なお、労基法違反は法人としての処分のみならず、個人に対する刑罰もあることには注意が必要です。処罰の対象は、時間外労働を命令する直属上司が最も可能性が高いですが、現場の方だけではなく、人事責任者、役員、場合によれば社長も対象となる事案もあります。会社の方針でやっていることだから、自分が責任を追及されることはありえないと思っている人は多いのではないでしょうか。しかし、現実には刑事罰というあまりにも大きい制裁がありうるのです。
長時間労働対策として最も重要なこと
最後に一言だけ、長時間労働などの法違反を是正するために必要な考え方について、述べておきたいと思います。それは人事が「ノー残業デー」を企画することでも、現場に「労働時間を減らせ!」と檄を飛ばすことでもありません。そもそも、労働時間を減らすには、人を増やすか、仕事を減らすか、生産性を上げるしかないのです。しかし、生産性を上げるには限界がありますし、人や仕事を変えないままに「労働時間を減らせ!」という掛け声だけでは、サービス残業の温床になったり、上司の思いを「忖度(そんたく)」して労働時間を隠してしまう事態となります。
業務を減らすということは、具体的には「○時以降の問い合わせには翌日回答する」「納期○日以内は無理」「これ以上のサービスは行わない」という判断を行うことです。つまり、最終的には「仕事を減らす」=「売り上げの数字を減らしても良いのか」という判断が求められますが、これは正に経営判断です。
そうだとすれば、経営層が現場と一体となり、「何をどこまでやるか」「何をやらないか」という線引きを行うことが最も重要なことなのです。実例として、ある企業の社長は、労働時間短縮のためにあるアフターサービスを廃止した際に、取引先に対して自らお詫びと説明行脚を行いました。このように、経営層が本気で取り組むこと、これが長時間労働対策として最も重要なことです。もはや「知らなかった」では済まされないのです。現在のコンプライアンスの最上位項目として本気で取り組む企業が増えることを願っています。
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