「労働法は守れなくて当然」はもう通用しない 変われない企業は「検索」で吊るし上げに遭う

✎ 1〜 ✎ 16 ✎ 17 ✎ 18 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

まずは、行政責任について見ていきましょう。長時間労働による行政責任として大きいのは「労災責任」です。うつ病などの精神疾患について、厚生労働省は「心理的負荷による精神障害の認定基準」を定めています。この基準を満たすと、「業務上災害」として労災保険給付が支給されることになります。長時間労働については、同認定基準において残業時間(1カ月当たりの法定労働時間を超える残業時間数)80時間を超えると労災が認められやすくなり、100時間を超えると相当程度の確率で認められ、160時間を超えるとそれだけで労災認定がなされるという関係にあります。

近時の労災認定における「労働時間」のとらえ方は、会社に滞在する「在社時間」=「労働時間」とされるケースが多く(本来在社時間と労働時間は別物ではあるはずですが)長時間労働が認められやすい傾向にあります。

自社名が「ブラック企業」として検索上位に

そして、最近の行政の動きとして怖いのは、「企業名の公表」です。過労死が発生したり、100時間を超える長時間労働が一定割合認められ、労基法違反があるなどの場合には、厚生労働省HPに企業名が出ることがあります。これがウェブメディアで「国が認めたブラック企業リスト!」などのタイトルで記事化され、ついには配信先であるヤフーニュースなどの大きなメディアにも露出してしまうことも少なくありません。そうすると、一般の人が会社名で検索をかけた時、ネガティブなニュースやまとめサイトが多数に上位表示させるようになってしまうのです。

インターネット上の情報は、一度テキストとして残されてしまうと、消えることなく残り続けます。こうした事態を招くと、企業イメージに与えるダメージは深刻です。具体的には、新規取引の停止や既存契約の解除、官公庁の入札停止、銀行融資ストップや引き揚げなどがありえます。新卒採用にも影響する例があり、会社説明会を開催しても誰も学生が来なかったり、大学から出席を拒否される例も見られます。こうした損害を数値化することは難しいですが、本業利益に直結し、場合によれば次に述べる民事損害賠償責任よりもよほど大きいというケースもあります。近年はもっとも重要な観点です。

次に、民事責任です。労災が認められた事案では、ほぼ例外なく、後に長時間労働を原因とする安全配慮義務違反の損害賠償請求が企業に対して行われます。労災保険給付により一定の金銭給付がなされたとしても、労災保険ではカバーされない範囲の損害が存在しますが、企業はこの点について賠償責任があるからです。

労災保険ではカバーされない典型的なものとしては、精神的損害に関する慰謝料や、将来稼いだであろう収入相当額の逸失利益が挙げられます。損害額は、年齢と年収によって金額が定まりますが、事案によっては賠償額が億単位となることも珍しくありません。数千万~億単位の賠償となれば、「1年分の利益が吹き飛ぶ」という会社もあるでしょう。

次ページ刑事罰が科される可能性も
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事