マイケル・ルイスがPost-Truthに斬り込んだ 行動経済学を生んだ2人の天才の物語

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手近なものや見慣れたものを無条件で信じたり、見たくないものを見ないでいたりしていませんか?(撮影:今井康一)
データ分析を武器に、貧乏球団を常勝軍団へとつくり変えたオークランド・アスレチックスGMを描いた傑作『マネー・ボール』。ハリウッドで映画化もされた同書は、スポーツ界やビジネス界に「データ革命」を巻き起こし、社会現象とも呼ぶべき熱狂を世界にもたらした。
その著者、マイケル・ルイスは、大学院修了後、ソロモン・ブラザーズで債券セールスマンとして働き、そのときの経験をまとめた『ライアーズ・ポーカー』で作家デビュー。以後、主に金融業界の内幕を鋭くえぐり出す、数々のベストセラーを世に送り出してきた。
そんなルイスの待望の新作『かくて行動経済学は生まれり』が日本でも7月14日に発売される。本書でルイスが描くのは、経済学の歴史を覆した2人の天才心理学者である。この本が生まれたきっかけは、『マネー・ボール』刊行後にルイスが目にした、とある書評だったという。なぜ、ルイスはいま心理学者を描いたのか? その答えと本書の読みどころを、月刊誌『FACTA』主筆の阿部重夫氏が解説。その全文を掲載する。

無数のデマが氾濫し、失われる虚実の境

1989年以来、時代の最先端を読み解くルポルタージュを世に送り続けるマイケル・ルイスは、さすがに勘が鋭い。前作『フラッシュ・ボーイズ』で株式などの超高速取引(HFT)の"先回りの詐術"を暴いたと思ったら、今度は米大統領選1カ月後の2016年12月に出版した本作『かくて行動経済学は生まれり』で、Post-Truthの世界に斬りこむという離れ業をやってのけた。

Post-Truthという新語は、英語辞書の老舗オクスフォード大学出版局が選ぶ「今年の流行語」2016年大賞を射止めた。実は訳が難しい。「ポスト真実」と直訳してもピンとこないが、英国の国民投票による「EU(欧州連合)離脱」や、トランプが逆転勝利した米大統領選で、ネット空間を無数のデマ、偽ニュースが乱舞したあげく、誰もが仰天する予想外の結果が飛び出したことからおよそのイメージがつかめる。

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