「ちゃんと議論できない」日本社会への処方箋 堀潤×若新雄純「論破禁止ゼミ」の狙いを聞く
成熟したアメリカの「議論の仕方」
――今年2月に堀さんと若新さんは、「論破禁止」をルールにしたゼミを開設されました。「参加者同士が互いに否定・攻撃・論破することのない学習空間をつくる」ことを重視しているそうですが、そもそも「論破禁止ゼミ」はどんな経緯で開設されたのでしょうか。
堀潤(以下、堀):よく「日本人は議論がヘタだ」と言われますよね。ニュース番組の制作をしていると、確かにそれを痛感します。
たとえば「原発」について議論したとき、「脱原発」か「原発推進」のどちらのスタンスにいるかはみんな強く語れる。でも、具体的な実効策についてはなかなか議論が発展しない。
賛否を問う論争に夢中になっているうちに、社会でまた別の議論すべき問題がでてきて、当初の原発問題はうやむやになってしまう。そういった不健全な状況を改善したいと、ずっと思っていたんですね。
で、その解決の糸口を見つけたのが2012年の「アメリカ留学」でした。当時、僕が住んでいたカリフォルニア州にある、サンオノフレ原発(※現在は廃炉)で放射能が漏れる事件が起きたんです。日本での原発事故が起きたあとで、その放射能漏れの原因となった蒸気発生器の製造元が日本の三菱重工業であったことが住民をさらに動揺させました。
どう対処すべきかアメリカ人の中でも議論が分かれました。そして、運営元の電力会社や再稼働しないと生活に支障が出る労働組合、不安を募らせた地元住民、環境NGOの間で、意見が「再稼働派」と「反対派」に分かれたんですね。
――日本と同じように。
堀:はい。状況は日本の原発問題とさほど変わりません。しかし、議論の仕方が大きく違いました。アメリカには「パブリックミーティング」という仕組みがあって、地域で何か大きな問題が発生したとき、関係者たちみんなが集まって何度も議論を重ねるんです。
今回のサンオノフレ原発の場合、関係者だけでなく中立の立場のファシリテータもきちんといて、彼がパブリックミーティングを進行します。「みなさんがこの問題に対して、どんな情報を持っていて、どこを課題と思っているのか話し合ってください」と。そこで出された情報は、自分にとって都合のいい意見ではなく、基本的には事実であるファクトだけなんですね。