米国とロシア「サイバー戦争」のリアルな危険 水面下でせめぎ合いが続く現状
「私たちの情報機関は常に法律に従っている」
メルセデスベンツの運転席でハンドルを握るロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、まっすぐに前を見つめたままそう断言した。助手席に座っている米国人映画監督のオリバー・ストーンは、その発言に黙って耳を傾けていた。
別の日、大きな丸テーブルに座ったストーンは、プーチンに対して、「あなたには(米大統領選を左右する)大きな影響力がある」と問いかける。するとプーチンは少し表情を緩めてこう答えた。
「ほかの国とは違って、私たちは断じて他国の内政に干渉することはない」――。
せめぎ合いが続く米露のサイバー戦争
このやり取りは、米国で6月12日から4日連続で放映されたドキュメンタリー番組からのシーンだ。アカデミー賞受賞監督のストーンが、プーチンを2年にわたってインタビューしてまとめた、貴重な映像である。
言うまでもなく、このやり取りが注目される理由は、背景に2016年の米大統領選にロシアがサイバー攻撃などで介入したという疑惑が見え隠れしているからだ。
このインタビューが放映されてから10日ほど経った6月23日、米『ワシントン・ポスト(WP)』紙が長編のスクープ記事【Obama’s secret struggle to punish Russia for Putin’s election assault,The Washington Post,June.23】を公開した。これによると、バラク・オバマ前大統領が、米大統領選に干渉したロシアに対してサイバー攻撃を仕掛ける命令を下し、その作戦はドナルド・トランプ大統領に引き継がれているという。
ロシアやアメリカのサイバー攻撃は、その特性から非常に「目に見えにくい」ものだ。しかし、水面下では様々な思惑の混じり合ったせめぎ合いが続いている。米大統領選の背後で蠢いていた米露によるサイバー戦争の実態に迫りながら、今回WPが明らかにした、オバマ政権の対ロシア対応はどんなものだったかを紐解きたい。