米国とロシア「サイバー戦争」のリアルな危険 水面下でせめぎ合いが続く現状
では、バイデンの言葉通り、ロシアに対する「メッセージ」は実際に送られたのか――。米政府にとってのサイバー戦略は、極秘中の極秘として扱われており、なかなか詳細が表に出てこないことが多い。ただ攻撃が行われれば被害が出るため、そこからヒントは得られる。
「異変」が起きたのは、10月23日のこと。ウクライナを拠点に活動する「ウクライナ・サイバー連盟」という組織が、ロシアのウラジスラフ・スルコフ大統領補佐官の電子メールをサイバー攻撃によって盗み、この日から2週間にわたって次々とネット上に公表したのだ。公表された電子メールの内容は、たとえばロシア政府がいかにウクライナの分離独立派を支援し、細かく指示を出したり、資金を管理したりしているのかが分かるような内容だった、という。
筆者の取材に応じたウクライナ在住のサイバーセキュリティ専門家は、「ウクライナ・サイバー連盟とは、ウクライナ各地にいる反ロシアのハクティビスト(ハッカーとアクティビストを足した造語)が個々に独立して集まった組織」だと説明した。もともとバラバラで活動し、それまで大した活動もしていない、ほとんど無名のハッカーたちだった。
ウクライナ・サイバー連盟は、メール暴露に合わせて、手の込んだハイクオリティな犯行声明ビデオを、流暢な英語を含む5カ国語で公表する。前出の専門家は、「サイバー分野でトップレベルのプロフェッショナルが協力しているようです」と述べ、「米民主党への攻撃に答える『メッセージ』だと考えられます」とも指摘した。つまり、ウクライナのハッカーを使って、バイデンの言った「同じようなレベル」の報復措置が行われたのではないか、ということを指摘しているのだ。もちろんアメリカが関与しているかの証拠は表面化していないが、その可能性は十分にある。
爆弾と同じような「デジタル兵器」を持つ米国
米大統領選のサイバー攻撃をめぐっては、ここまで見てきたように事態が展開してきた。そして6月23日のWPの記事は、この顛末に新たな情報をもたらしている。
同記事によれば、オバマ前大統領にロシアの米大統領選ハッキングについての超極秘情報が報告されたのは、2016年8月のことだった。当時のジョン・ブレナンCIA(中央情報局)長官が伝えたその情報は、プーチン大統領が自ら直接、米大統領選に介入を指示し、クリントンを貶めてトランプを勝利させるよう命令を下した、というものだった。しかもその情報は、ロシア政府内部の奥深いところからもたらされたものだったという。
これに対してオバマは12月末、ロシアのインフラにサイバー兵器を埋め込む許可を出した。WPはこの兵器についてこう書いている。「爆弾と同じようなデジタル兵器であり、ロシアとの緊張関係が高まれば米国が爆発させることができるようにするものだ」
この作戦には、NSA(米国家安全保障局)と米サイバー軍、そしてCIAが関わっているという。前回の拙稿(2017年6月7日「世界震撼『ランサムウェア』の背後で蠢く『米朝サイバー部隊』の実態」)でも触れたが、米国のサイバー攻撃は、NSAとサイバー軍が担う。そして、基本的にサイバー攻撃を受けないよう外部ネットワーク(インターネットなど)から隔絶されているインフラ施設のコンピューターシステムに対するサイバー攻撃では、CIAが現地で工作員やスパイなどを動かして協力することが多い。