ベトナム原発計画中止で無視される「民意」 史上最悪の海洋汚染事件と重なる「構図」
ベトナム政府は昨年中止を決めた原子力発電に代わり、火力発電の推進にシフトしている。特に石炭火力は一気に加速し、中部沿岸には大型発電所の建設プロジェクトも相次ぐ。
そんな中、4月中頃のベトナム国営紙タンニエンに「石炭発電は高くつく」との大きな見出しが躍った。記事はコスト高の輸入石炭と、発電所による沿岸部の環境破壊を危惧する内容だった。
手つかずの美しい海岸が残るベトナム中部。しかし、大規模エネルギー開発のほかにも、「ベトナム史上最悪の公害」問題、また一触即発の中国との領有権問題と、なにやら海岸線には不穏な空気が漂う。突然の原発計画中止から見える、ベトナム沿岸の現在に迫る。
前編記事:ベトナム最悪の海洋汚染、意外な「その後」
「指導者が変われば考えも変わる」
南シナ海に面した風光明媚なニントゥアン省タイアン村。2010年に原子力発電所の建設予定地となってから、村の集会場には事業化調査(FS)の現地事務所が置かれ、時折、日本人も出入りしていた。
今春訪ねると、原発の白紙撤回を受け返還された集会場では、村民の結婚式が行われていた。地元老人会の代表で、原発視察のため日本に招かれたこともあるグォー・カック・カーンさんは話す。
「村はなんにも変わっていませんよ。土地の保証金の合意もされてなかった」
原発計画の突然の中止発表から5カ月。全住民が立ち退く予定だったタイアン村は、7年の迷走の揚げ句、ただの静かな半農半漁の村に戻っていた。
さぞやひと安心だろうと村の人たちに尋ねると、みな一様にややけげんな表情を向ける。
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