ベトナム原発計画中止で無視される「民意」 史上最悪の海洋汚染事件と重なる「構図」
基本方針は揺らがないものの、チョン書記長が留任し、調整型とされる新首相が据えられた新指導部は、やはり改革の勢いが鈍るだろうと予想されている。ベトナムの政治、防衛問題に詳しい小高泰・拓殖大学講師は、いまの政権内部の動きとして、
「グエン・タン・ズンのプロジェクトはすべて止めろ、という流れがある」
と語る。ズン氏が決めたTPP参加は、米国が抜けたこともあるが、早速慎重な立場へと転じた。今年5月にもズン氏に近いとされたホーチミン市トップであるディン・ラ・タン党政治局員が懲戒処分を受けている。前政権の、国営石油会社会長在任中の不祥事を問われての異例の更迭。最高指導部内の勢力争いと、ズン氏の影響力排除はいまだ続いていると理解したほうがいいだろう。
領有権問題を抱える中国との関係
ズン氏はまた、南シナ海に進出する中国に対して強硬姿勢を崩さなかった。
ズン氏引退の直前には中国の習近平国家主席の訪越と、ベトナムの保守派フン国会議長の訪中が相互に行われている。うわさ話が大好きなベトナム人の間では、領有権問題などでズン氏を嫌う中国とベトナム共産党の思惑が一致し、このときにズン氏追い落としが決められたとささやかれた。
「中国より国内の事情だと思いますが、(ベトナム)共産党は一貫して中国との経済的なつながりを強めようとしている。中国の力は増しています」(小高さん)
南シナ海の領有権問題も、こうした経済で強固に結び付く両国関係を無視すべきではないという。反中感情をあおり対決姿勢を打ち出しながらも、ベトナム北部と中国南部を結ぶ高速道路など、国内のインフラ整備は中国の支援で着実に進んでいる。
また、火力発電所建設の大半は中国企業が受注しているが、ズン前首相はそこに温暖化対策として「脱石炭火力」を打ち出していた。ズン氏が去り、その後一転してエネルギー政策は原発から石炭火力発電への方針転換。ここにも中国の影を感じてしまう。
ズン氏の失脚劇には経済上のストーリーが見え隠れする。強い指導力でこの10年の経済発展を牽引した一方、ズン時代には既得権益を持つ国営企業との軋轢、金権腐敗の蔓延も指摘された。
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