実は、「骨太方針2017」に記された前掲の財政健全化目標のくだりは、今年4月27日に自民党の財政再建に関する特命委員会で取りまとめられた「骨太の方針2017に向けての意見集約」に、そっくりそのまま打ち出されている。完全なコピーであり、経済財政諮問会議が発案した文言ではないのだ。
財政再建に関する特命委員会の「骨太の方針2017に向けての意見集約」の文言で、この「同時に」と入れた意図は、基礎的財政収支の黒字化目標は当然堅持するものであり、それが達成できれば債務残高対GDP比は同時に低下するものだ、という理解の下で意見集約したものだった。「骨太方針2017」の文言が、財政再建に関する特命委員会の「骨太の方針2017に向けての意見集約」を受けたものだと、自民党内のそういう意図を踏まえたものというべきである。
基礎的財政収支の黒字化目標は、与党内で意外な効果をもたらしている。それは、予算要求の取りまとめに際し、党内の秩序を保つ機能があるという。基礎的財政収支の黒字化目標を達成するために、2018年度予算編成までは、歳出改革の「目安」が設けられた。これは、「経済・財政再生計画」に盛り込まれている。国の社会保障費は2016~2018年度までで1.5兆円の増加にとどめ、政策的経費である一般歳出はこの3年間で1.6兆円の増加にとどめるというのが、目安である。
債務残高GDP比では予算の秩序が失われる
財政出動を望む議員にとっては、この目安は目の上のたんこぶかもしれない。しかし、与党側から予算要求を政府予算案に反映してもらおうとするなら、あれもこれも予算増額という要求を出してもすべてを聞いてもらえるはずはなく、結局、そのうちどれを採用するかは与党ではなく政府側に主導権が渡る。前述の目安を閣議決定している政府側は、目安を逸脱したような予算要求には、政府予算案を取りまとめる最終段階で取捨選択しなければならない。
もし、与党側の主導権を確保したいなら、与党内で予算要求の意見集約をある程度済ませておかなければならない。あれもこれも予算増額というのではなく、どれを増やし、どれを削るかを党内の議論で意見集約することによって、ある種の求心力や秩序が生まれる。基礎的財政収支の黒字化目標が、その後ろ盾になっているようだ。現に、基礎的財政収支の黒字化目標がなくなったら、予算要求は何でもありになってしまって、まとまるものもまとまらない、という意見もある。
基礎的財政収支の黒字化目標は、消費増税を予定どおり実施するために不可欠なものという見方もあるが、それ以上に、与党内の予算要求の秩序を保つ効果もあるといってよい。これを債務残高対GDP比に取り換えてしまうと、歳出抑制の必要性が低下し、歳出予算をいくらに収めればよいかが不明瞭になって、予算要求の秩序が失われるという副作用も想起される。
基礎的財政収支の黒字化目標は100%達成不可能、と確定したわけでもない段階で、その目標を閣議決定した内閣で自ら取り下げるという、恥ずかしいことをする必要はない。
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