「部長」「課長」という名がついているのに、部下はいないし、権限もわずか、といったことは、よくある話。また、同じ名称の人が何人もいることがある。たとえば、IT企業に勤めるKさんは、あるマスコミ系企業に打ち合わせにいったところ、「10人ぐらい名刺交換したうち、8人が同じ部署の『担当部長』。誰がどう偉いのかわからなかった」そうだ。
なぜこんなことが起こるのか。楠木氏は、大きく2つの理由があると指摘する。そのひとつを「従業員のモチベーションを保つため」だという。
日本企業はいまなお年功序列の人事制度を続けている会社が多い。しかし、ポストには限りがあるので、年齢を重ねても、部長や課長といったポストにつけない人が必ず出てくる。また、ポストに付いていた人でも、「役職定年制度」によって、55歳前後になると強制的に管理職を解かれることもある。
権限ナシ部長が生まれる理由は「やる気アップ」のため?
「ただ、こうした人たちにもモチベーション高く働いてもらわないと困ります。そこで、『この年になって、役職なしでは格好がつかない』という気持ちをくんで、何らかの役職を用意するわけです」(楠木氏)
その一例が、先ほど出てきた「担当部長(課長)」。部下はいないし、権限もそれほど持っていないが、社員のこれまでの貢献度も鑑みて、“部長”という名称をつけている。同様に、調査役や審査役などと、『◯◯役』という名称の役職を与えることもあるという。
社会人に聞いてみても、そうしたポジションの役職は多い。
「弊社の場合、『課長代理』は、部下のいない人のポジション」(物流・41歳)、「次長がイチ営業マンに降格したが、役職だけは次長のまま」(OA機器・43歳)、「部長が降格すると、『フェロー』という謎の役職に就く」(IT・43歳)、「『参事』や『参与』は、定年を迎えた役員が就く役職」(会計・42歳)といった声があがった。
合併や経営統合をした直後の会社も、部長やマネジャーが何人もいることがある。合併前の役職から降格させにくいからだ。モチベーションの意味では、20~30代の若い人に、「リーダー」「マネジャー」などの肩書をあえて与えることもある。後輩が1人か2人いる程度でも、役職名を与えればやる気が出るし、責任感も生まれるというわけだ。
権限のあまりない役職が存在するもう1つの理由は、「対外的な信用を得るため」だ。
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