「残業規制はむしろ迷惑」と考える人々の事情 スキルアップできず割を食うのは若者たちだ

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また、このような人は、会社から特に指示がなされなくても、あるいは不必要な残業はするなと指示されていたとしても「よかれと思って」残業をするケースが多いです。さらに「よかれと思って」残業時間として申告しない方がいいと考えている方もおり、会社としては適正に労働時間管理をしようとしても、いつの間にか「サービス残業をさせていた」ような事態になってしまうことすらあります。

困る人③ 長時間残業をすることで上司に頑張っているアピールをしてきた人

これは昭和的価値観の職場に多く見られるタイプです。いまだに「上司が残業しているからまだ帰れない」「先に帰るのは心苦しい」という職場は想像以上に多く残っています。そして、部下だけではなく、上司も「遅くまで居残っているヤツが偉い」と思っている場合がタチが悪いのです。そのようなケースでは、長時間労働をする人ほど良い人事考課がつけられることになり、結果的に長時間労働が周りにも伝播する悪循環となります。

長時間労働改革には評価制度の見直しも併せて必要です。また、評価制度を改めていても、結局のところ「評価されるのは遅くまで居残っているヤツ」という運用になってしまっては意味がありませんので、やはり上司の価値観から変わらないといけません。

スキルアップをする機会が失われていく

困る人④ スキルアップをしたいと思っている人

最後に、若い人に向けてです。多くの人事パーソンから見れば、入社して10年程度はある程度の労働が必要であると考えています。もちろん、企業としても研修や教育に相当程度コストを掛けて若い人のレベルアップを図ろうとします。しかし、新入社員全員が研修や企業が提供する教育プログラムだけで劇的に成長するわけではありません。職務を通じて経験を積まそうとしても、全員に均等に機会を提供できるわけではありませんし、同じ仕事をしたとしても個人差は出てきます。

そのときに、業務量をこなすことによりスキルアップするという機会が、今後の労働時間規制により失われていくでしょう。スキルアップの場も失われる側面があるとすれば、最終的に割を食うのは若者自身です。特に、社会人になってからある程度が経ち、自分の勝負すべきフィールドを見つける過程にある方は、ある程度「その分野で頑張る」プロセスを踏む必要があるでしょう。そうでないと先々、自由で自律的な働き方が可能となるポジションが手に入りません。これが現実です。

冒頭で述べたように、労働時間規制は健康確保の観点から重要であることに異論はありません。ただし、「困る人々」がいるというのもまた現実なのです。この現実を見ずに議論をしても机上の空論となってしまうでしょう。「働く」ということはほとんどの人の人生にとって重要なことですから、本記事をきっかけに、一人ひとりがこの問題について深く考えてほしいと思います。

倉重 公太朗 倉重・近衛・森田法律事務所 代表弁護士

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くらしげ こうたろう / Kotaro Kurashige

慶應義塾大学経済学部卒。第一東京弁護士会労働法制委員会 外国法部会副部会長。日本人材マネジメント協会(JSHRM)執行役員。日本CSR普及協会雇用労働専門委員。労働審判・仮処分・労働訴訟の係争案件対応、団体交渉(組合・労働委員会対応)、労災対応(行政・被災者対応)を得意分野とする。企業内セミナー、経営者向けセミナー、社会保険労務士向けセミナーを多数開催。著作は20冊を超えるが、代表作は『企業労働法実務入門』(日本リーダーズ協会 編集代表)、『なぜ景気が回復しても給料は上がらないのか(労働調査会 著者代表)。

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