ギャンブルの様相呈する「不妊治療」の最前線

米国で増えるパッケージプランの実態

ところがファティリティIQの調べでは、1回の受精卵移植で成功した30人のうち、87%の女性が2個かそれ以上の受精卵を移植されていた。これは全米平均を約10%上回る。私が取材したIVFで子どもを授かった人々も、複数の受精卵を移植しなければならないようなプレッシャーは感じなかったと語った。だがこうしたパッケージ契約では、クリニック側にそうしたくなる商業的な理由があるのは否めない。

不妊治療の専門医からも懸念の声

こうしたパッケージプランに懸念を抱く医師たちもいる。米国でも有数の患者数を抱えるニューヨーク大学ランゴーン不妊治療センターでは、この手のパッケージプランは扱っていない。

同センターの所長を務めるアラン・バークレー医師は、その理由をいくつか挙げた。たとえば、不妊治療の一部もカバーする医療保険に加入している人が年々増えていること。つまり、運に恵まれなかった場合の治療費節約のためにパッケージプランを求める人は減っているというわけだ。同時に、治療や受精卵検査の技術の向上に伴い、受精卵の移植に何度も失敗する可能性(ひいては治療費の総額)は下がっているという。

「(パッケージプランの)現状は、患者たちが(カネを出し合って)自前で保険組合を作っているようなものだ」と彼は言う。「早くに妊娠できた人々はかなりの額を余計に支払うことになるが、それによって(最終的に返金を受ける)ほかの人たちの分がまかなわれている」。

もし不妊治療クリニックがそういった説明を患者にするのなら、とりあえずバークレーも納得するだろう(もっとも、無認可業者による勝手な保険の販売を歓迎しない州当局は眉をひそめるかもしれないが)。

「私の知るかぎり、こういうふうにはっきりした説明をされることはない」とバークレーは言う。

前出のバークはパッケージプランの高額な料金について検討し、夫とともにこう考えた。もし何回か試して子どもができなかったら、返金してもらってそのカネを養子縁組に――最終的に子どもはもたないと決意した場合には旅行に――使おう。数回試したうえで妊娠できたとしても、1回ずつ支払うよりは安上がりなはずだ――。

では、最初に採卵した卵子で妊娠できた場合は?(実際にそうなったわけだが)。

「人は失敗に続く失敗に慣れてしまうもの。だから私たちも、すでに慣れたもの(失敗)以外の何も手にすることはできないと思うようになっていた」とバークは言う。「つらい経験をしすぎていたから、たとえ間違いだったとしても、賭けができることがすごく幸せだった」。

(執筆:Ron Lieber記者、翻訳:村井裕美)

(c) 2017 New York Times News Service

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