北朝鮮有事で日本が「難民問題」に直面する日 「難民の人権」と「治安」のバランスが問題だ

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仮上陸の期間は、入管法で一定の期限が定められているわけでなく、上陸手続が最終的に完了するときまで、日本政府が必要に応じて、柔軟にこの期間を決められる。

つまり、仮上陸を許可している期間中に、韓国政府や中国政府との間で難民の受け入れ交渉を行い、受入れの目途がたった段階で、いったん上陸特別許可を出し、その後に受入れ国に送り出すといった手段を取ることもできる。

また、最終的な上陸の許可・不許可の判断の手続中に、危険人物であることなどが判明した場合には、退去命令を出すこともできるし、それに従わない場合には、身柄を拘束して強制送還することもできる。

北朝鮮難民の人権保障を最重視するケース

最後に3つ目の考え方として、「難民の人権保障」を最重視した場合、いったん仮上陸を認めたうえで、数日から数週間後に「一時庇護上陸」の許可を出すという流れになるだろう。

一時庇護上陸は「難民条約上の難民」に該当する可能性があり、かつ、一時的に上陸させることが相当であるときに、簡易な手続により上陸を許可する制度である。これは「国が取り急ぎ保護する」ための緊急措置として行うことができる。

最初から「難民条約上の難民」として受け入れることができないのは、先にも述べたように、本国が戦争状態にあるだけでは、基本的にはそれに該当しないからだ。

「難民条約上の難民」と認められるには、人種や政治的意見などにより本国政府から迫害されるおそれがあること、などが要件となっている。しかし、さまざまな事情を考えて、該当する「可能性」があると日本政府が判断すれば、一時庇護上陸の許可を出しうるということだ。

実際に日本政府は、過去に数人レベルの脱北者が海上で発見されたケースでは、仮上陸を認めたうえで、数日後に一時庇護上陸の許可を出している。一時庇護上陸の期間は6カ月以下の範囲内で、この間に韓国政府などとの間で受入れ交渉を行ってきた。

一時庇護上陸の許可は、適法に上陸することを認めるものであるから、以後は、身柄拘束されることも、退去を強制されることもなくなる。一時庇護上陸の許可の期間内に、難民認定申請を行えば、申請したことを理由として在留資格を得られる。難民認定申請後、6カ月が経過した時点以降は、就労することも認められる。これが、北朝鮮難民の地位が最も安定し、人権保障にも厚い手段だろう。

法律をひもといても、2006年に成立した「拉致問題その他北朝鮮当局による人権侵害問題への対処に関する法律」は、「政府は、脱北者の保護及び支援に関し、施策を講ずるよう努めるものとする」と定めている。この法律の趣旨からすれば、人権保障を重視して、仮上陸だけでなく一時庇護上陸の許可まで認めるべきだという見解も十分に成り立つところではある。

ただ、今回はこれまでのケースとはまったく異なる。

なぜかというと、数人レベルではなく、数万人レベルの大量の難民が一気に押し寄せることが想定され、しかも、その中に、いわゆる武装難民や特殊工作員が紛れ込むおそれを否定できないからだ。

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