北朝鮮有事で日本が「難民問題」に直面する日 「難民の人権」と「治安」のバランスが問題だ

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現実的に、特殊工作員などをはじき出す精緻な審査を短期間で行うことは不可能である。いったん一時庇護上陸の許可を出してしまえば、その後は適法に上陸したものとして扱われる。そうなると、許可後に特殊工作員であることなどが判明しても、速やかに強制収容したり、退去強制することができなくなってしまう。

入管法の条文上は、テロ行為やテロを容易にする行為などを行うおそれがあると法務大臣が認定した場合には、退去強制できることとなっている。が、この対象にあたると認定するためには、外務大臣、警察庁長官、公安調査庁長官および海上保安庁長官の意見聴取や協議などが手続上必要であり、機動的な対応は現実的には無理である。

特殊工作員が難民を偽装する可能性もある

そして、現時点では、テロ等準備罪(共謀罪)も成立していない。その前提で考えると、難民を偽装した特殊工作員がテロ等を計画していても、準備の段階では、刑事手続きで逮捕することも困難である。このような事情を考えて、仮に今回は基本的に、一時庇護上陸の許可までは認めないこととしたとしても、カゲ人や病人、子どもに対しては適切な配慮をする必要がある。また、1959年から1984年の帰還事業で北朝鮮に渡った、いわゆる日本人妻とその家族も、受け入れなければならない。

もし、中国や韓国などの他国政府が、北朝鮮難民を限定的にしか受け入れないことを表明し、難民自身も日本での生活を希望した場合には、どうなるか。本国が内戦状態にあるシリア難民などについてのこれまでの扱いに従えば、日本政府は、北朝鮮難民についても、「難民条約上の難民」として認定はしないものの、最終的には人道配慮に基づき、日本での在留を特別に認める可能性がある。

しかし、その際の「特定活動」という在留資格では、政府の定住支援(日本語教育、就労支援など)の対象外となる。まったく異なる社会的価値観で生活してきた北朝鮮の人々が、言葉も通じない日本で自活して定着するのは、非常に困難である。

前述したように、不法入国者だとして一律に強制収容するような考えは人道に反するし、国際社会からの非難を受ける可能性も高い。そうなると、日本社会に受け入れるためには、法改正も視野に入れて、大規模な予算措置を講じ、生活保護や定住支援の対象とする覚悟が国民に求められるかもしれない。

ただし、北朝鮮からの難民が実際に発生するような事態を迎えた場合には、日本にも何らかの形で被害が生じていることも十分考えられる。その場合には、北朝鮮からの難民を広く受け入れることに対して、国民からの強い反発が生じる可能性もある。いずれにしても極めて難しい局面になることだけは間違いない。

山脇 康嗣 弁護士

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やまわき こうじ / Koji Yamawaki

慶應義塾大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学大学院法務研究科修了。入管法、技能実習法、国籍法、外国人労務管理などの外国人関連法制を専門とする。現在、日本弁護士連合会人権擁護委員会特別委嘱委員(法務省入国管理局との定期協議担当)を務める。著書に『〔新版〕詳説 入管法の実務』(新日本法規)、『入管法判例分析』(日本加除出版)、『技能実習法の実務』(日本加除出版)、『Q&A外国人をめぐる法律相談』(新日本法規)、『外国人及び外国企業の税務の基礎』(共著、日本加除出版)がある。『闇金ウシジマくん』『新ナニワ金融道』『極悪がんぼ』『銀と金』「鉄道捜査官シリーズ」『びったれ!!!』「ゆとりですがなにか」など、映画やドラマの法律監修も多く手掛ける。

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