過去の歴史の中で、オーケストラの名前が変わるケースは頻繁にあるが、そのほとんどが運営母体やスポンサーの変更によるものだ。
その意味で「紀尾井ホール室内管弦楽団」のケースはまれな例といえそうだ。海外における名称変更で印象的なものはといえば、名門「イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団」の例が興味深い。このオーケストラが誕生したのは1936年。ナチス・ドイツの台頭によるユダヤ人迫害が盛んになってきた矢先の時代だ。
ベルリン・フィルをはじめとしたヨーロッパの主要オーケストラで活躍していた多くのユダヤ人音楽家たちは、ナチスの支配するヨーロッパを離れてパレスチナへ移住。ユダヤ系ポーランド人の名バイオリニスト、ブロニスラフ・フーベルマンを中心にユダヤ人の故郷であるパレスチナの地に、自分たちのための新たなオーケストラ「パレスチナ交響楽団」を設立したのだ。
その立ち上げ公演が行われたのが1936年12月6日テルアビブ。指揮はアメリカに亡命していた巨匠アルトゥーロ・トスカニーニが務め、世界中の音楽ファンが注目する中、ロッシーニのオペラ「絹のはしご」序曲、ブラームスの「交響曲第3番」、シューベルトの「未完成交響曲」、ウェーバーのオペラ「オベロン」序曲が演奏された。
そして1948年のイスラエル共和国建国に伴い、現在の「イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団」へと改名された歴史を持つ。この件に関しては牛山剛著『ユダヤ人音楽家〜その受難と栄光〜(ミルトス双書)』に詳しく書かれているので、興味のある方はお読みいただきたい。
新たな船出に幸あれ
紀尾井ホールの新たなロゴマークには、「求心力」と「一体感」を表わす球体、そしてステージ上に配置されたオーケストラを象徴する円弧が描かれている。円弧の毛筆調のはらいには、濃密で質の高い音楽を外に向かって放つ「発信力」の意味が込められているのだという。そのロゴマークのもと、いよいよ4月21日(金)、22日(土)に「紀尾井ホール室内管弦楽団」としてのリニューアルオープン、いわゆる旗揚げ公演が開催される。
第106回定期演奏会にあたるこの公演では、ライナー・ホーネック指揮のもと、ストラヴィンスキーの「弦楽のための協奏曲 ニ調(バーゼル協奏曲)」、J.S.バッハの「2つのヴァイオリンのための協奏曲」、ハイドン「十字架上のイエス・キリストの最後の7つの言葉」を披露。装いも新たに登場する新オーケストラの響きやいかに。
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