歴史も伝統もない夢雀が、世界に羽ばたいた瞬間だった。
明治維新と長州ファイブ
そして今年2月15日、日本では初めてとなる夢雀のレセプションが都内某所で開催された。このとき、松浦さんの参謀役である原さんからこの日初めて明かされる発表があり、会場がどよめいた。
今年から高島屋で夢雀の取り扱いが始まるのだが、昨年できた初年度の夢雀にはプレミアムがつけられて、今まさに堀江酒場で造られている2年目の夢雀よりも高い価格をつけることが決まったというのだ。これまでも日本酒でいわゆる古酒を造っている蔵元はあったが、高島屋という日本屈指の百貨店で、「日本酒の賞味期限は1年」という固定概念を覆し、ワインと同じように熟成の価値を認められたのは画期的なことだった。
昨夏に夢雀が完成してから怒濤のような展開だが、これは序章にすぎない。
取材の最中、松浦さんが唐突に「来年、明治維新150周年なんですよ」と言ってきて、なんのことかと思ったが、話を聞いてあぜんとした。
「明治維新って山口から起こったじゃないですか。長州ファイブ(幕末に長州藩からヨーロッパに派遣された井上馨、遠藤謹助、山尾庸三、伊藤博文、井上勝の5人)の人たちも、最初はいろいろ言われたけど、その人たちが切り開いていったから、いまの日本があると思うんです。最初に突拍子もないことをやると絶対なにか言われるけど、そういう人がいないと何も変わらないじゃないですか。いま、一緒に仕事をしている方が井上馨さんの末裔で、これも何かの縁かなと思いました。夢雀を造ってからいろいろ言われることもあるけど、明治維新から150周年だし、私も山口県人として日本酒革命を起こしたいんです」
現代にあって、明治維新や長州藩士を意識して生きている人がどれほどいるだろうか。
松浦さんと話をしていると、体中からあふれ出るこのエネルギーはなんなのか、と驚かされるが、最後に納得した。松浦さんとその仲間たちは5カ年計画を立てており、初年度のドバイと香港、パリでのプロモーションを皮切りに、今年からマカオ、シンガポール、上海、マレーシア、ロンドン、そしてニューヨークへの進出を目指している。
はたから見れば壮大にも思える計画だが、目の前に立ちはだかる壁が高ければ高いほど、彼女の体に流れる長州の熱き血潮がたぎるのだろう。
仕事柄、数多くの起業家の取材をしてきたが、「革命を起こしたい」と語る女性に会ったのは初めてだった。長州ファイブと同じように、数年後、もしくは数十年後、世界にワインと対等に評価される日本酒が数多く生まれたとき、松浦さんは「日本酒革命を起こした長州の女傑」として語り継がれているのかもしれない。
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