宇宙開発は失敗がつきものだ。ロシアは文化として、時に個人の責任を追求することがあり、日本と似ている点があるという。だが、NASAはたとえ失敗した場合も、システムを改善し同じ失敗を繰り返さないことに焦点を当て、ヒアリングを行う。「誰かの責任を追及するためだと正直な意見が出ない。あくまで改善のために、率直な意見を引き出していくのです」(古川)。
逆に成功したときはどうだろう。リーダーは売り上げが上がったときや契約が成立したときなど、たとえ部下の働きであっても、自分の手柄にしがちだ。だが優れたリーダーは、決して自分ひとりの手柄にはせず、フォロワの貢献を讃える。宇宙飛行士の船長もそうだという。「リーダーの主語はつねに『IじゃなくてWe』なんです」(古川)。
侮れない、フォロワが必要
古川飛行士は小学生の頃から野球少年だった。中学2年からのポジションはキャッチャー。「個性の強い投手ばかりで、『俺に指示を出すな』と出すサイン全部に首を横に振る(笑)」古川は投手に好きな球を投げさせ支えながら、高校2年からはキャプテンとしてチームを率いていった。
宇宙飛行士チームでも、古川は「キャッチャー」のような存在だ。つねに全体を見守り、補佐しながら「ここは」という点を見逃さず、チームを動かしていく。
激しく自己主張はしないが、大きな仕事を成し遂げ、存在感を放つ。宇宙飛行士候補者に選ばれてから本番まで12年。その間、同期の星出彰彦、山崎直子宇宙飛行士が先に宇宙に飛んだが、技術者が大半を占める宇宙飛行士集団の中で壮絶な努力を重ね、ついにロシア宇宙船フライトエンジニアという超難関資格を手にし、本番でその大役を完璧に果たした。
「着実に実力を積み重ねる”継続力”は、ほかのベテラン飛行士にも影響を与えているのではないか」と毛利衛氏は語っていた。科学者として宇宙実験が得意なうえに、宇宙船の操縦を習得し、TVやCMなど広報イベントでも人気を得た。実は「侮れない存在」だと。
こうした古川氏の力の源は、”くみ取る力”だと関係者は証言する。「どんな仕事を与えられても丁寧に質問して成功イメージを把握し、100%以上の成果を出す。優秀な宇宙飛行士たちでも得手不得手がある。ここまでできる人はなかなかいない」。
こんな人がチームにいてくれたら最高だ。その真摯な姿勢がチームの雰囲気を気づかぬうちに変え、チーム力をも上げていく。プロジェクトを成功に導くか否かは、こうした「侮れないフォロワ」の存在にかかっているのかもしれない。
(撮影:今 祥雄)
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