「遠慮の壁」を乗り越える
たとえばNASAのフォロワシップ訓練でのことだ。「船長は飛行経験が豊富で、あなたが新人であっても気づいたことは言っていい。『習ったことと違うけど船長は経験豊富だからきっと考えがあるのだろう』などと思って、黙っていてはダメです」と教わったという。
「『沈黙は金』ということわざがありますが、宇宙ではまったく通用しません。わかったときは『わかった』と言ったほうがいいし、異常に気がついたら『気づいている』と声を上げることが求められます」(古川)
だが、頭ではわかっていても実践するのは難しい。古川にも苦い経験がある。
たとえばスペースシャトルのシミュレーション訓練でのこと。ある操作で、パイロットが古川に操作画面のメッセージを見せ「OKだね?」と確認を求めた。古川は、画面が遠くて見づらかったにもかかわらず、経験豊富なパイロットだからとOKを出した。
だが、訓練後に行われる反省会で、その対処は間違っていたことが指摘される。「『見えないのなら見えないと伝え、メッセージを読み上げてくれと言うべきだった』と言われました。100%確信が持てないなら、OKを出してはいけなかったのです」(古川)
古川はこうした訓練の中で、「『遠慮している自分』を発見した」と振り返る。外科医である古川は、手術などの場面で経験のある医師のリーダーシップの下、若い医師や看護師、麻酔医らとの「チーム戦」を経験。自らリーダーシップをとることもあれば、補佐する立場のフォロワシップも経験していた。そうした豊富な経験を持っていても、宇宙大国のNASAでは、専門外の技術分野ということで遠慮の気持ちが生じてしまったのだ。
しかし、あるリーダーとの出会いで、”遠慮の壁”を破ることができたという。「あるとき、『言うしかない』と思い切って意見を言ったところ、『Good Point,言ってくれてありがとう』という言葉が、経験のある宇宙飛行士から返ってきたんです」。
「間違ったプライド」を発揮しない
この経験から、古川はフォロワが進言するために大切なのは、まずは意見を言いやすい雰囲気をリーダーが作ることだと主張する。
「たとえ自分が知っていることであっても、部下が意見を言ってくれたら『Good Point』と評価する。逆に『そんなの知ってる、何言ってるんだ』などと言われれば、部下は萎縮して、二度と意見を言わなくなります。まずは上司が姿勢を変え、褒めて部下を育てることが大事だと思います」
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