残業上限と「女性活躍」を同次元で論じる愚

「生命」ではなく「生活」を守るルールが必要

ここで重要なのは、この第1次ワーク・ライフ・バランスというのは、「標準」をどうするか、労働者にとってのデフォルトルールをどうするかという問題であって、それ以上働かせることを禁止するというような話ではない、ということです。

残業の上限規制を正当化するのは、それ以上働かせたら健康や場合によっては命に危険があるからであって、そうではないのに残業を禁止することはできません。しかし、一律に残業を禁止することができないということと、残業するのが原則で、それを拒否する者のほうが異常であるという雇用慣行を維持しなければならないということとは別のはずです。

男性正社員が残業を断るには、相当の勇気が必要だ

私は2009年に刊行した『新しい労働社会』(岩波新書)の中で、普通の男女労働者に適用されるデフォルトルールは明確に変更すべきではないかと提起しました。具体的には、現在育児・介護休業法で時間外労働の制限請求権として設定されている月24時間程度を「原則」の上限とし、それを超える時間外労働は個別に合意した場合に限り認めるというオプトアウト方式です。現在はデフォルトルールは無制限で、労働者が請求して初めて制限されるのですが、それをひっくり返そうという考えです。

ただ、同書のそれに続く一節に書いたのですが、現在の日本の職場風土を前提にすると、特に男性正社員が残業を断るのには相当の勇気が要るでしょう。「なるほど、君はもう出世をするつもりはないと。こういうことだね」という上司の言葉を覚悟しなければならないかもしれません。

こうした“悶える職場”が変わらない限り、同僚たちの冷たい眼差しにも変わりはないでしょう。日本の長時間労働問題はあまりにも根深く、残業の上限規制1つで事態が解決するような生やさしい代物ではないのです。

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