残業上限と「女性活躍」を同次元で論じる愚 「生命」ではなく「生活」を守るルールが必要

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このことをやや皮肉な視点から描き出しているのが、吉田典史氏の『悶える職場』(光文社)です。彼は、繁忙期なのに毎日定時に帰るうえ、子どもが熱を出したといっては時々早退する育休明けの女性が複数いる部署で、上司や他の社員が連日の残業や休日出勤を強いられ、疲弊していく姿を描いています。

では彼女らは非常識なのでしょうか。戦後70年間かけて確立してきた日本の雇用慣行からすれば、間違いなく非常識です。だから彼女らのような働き方を揶揄して「マミートラック」(仕事と子育ての両立はできるものの、昇進などとは遠いキャリアコースのこと)などという言葉も生み出されるのです。しかしその常識を維持したままでは、子どもを抱えた女性たちが活躍する余地などありえないことも確かです。

第1次ワーク・ライフ・バランスの確立が必要だ

では女性が活躍できるためには何が必要なのか。恒常的に長時間労働するのが当たり前という日本型雇用の「標準」モデルと、子どもを抱えた女性向けの特別扱いとしての「ワーク・ライフ・バランス」の間に、もともと労働基準法が想定していた「原則」を改めて確立することではないでしょうか。

私はこれを、「第1次ワーク・ライフ・バランス」と呼んだことがあります。男女ともに、子どもに朝食を作ってあげてから会社に向かうことができ、家に帰ってから子どもに夕食を作ってあげることができるような働き方です。そのために必要なのは、所定労働時間を厳格に守らせることです。

とはいえ、これだけでは生活との調和を図るのに十分ではないので、「第2次ワーク・ライフ・バランス」が必要になります。朝は子どもを保育所に預けに行くために同僚よりも遅く出勤し、夕方は子どもを引き取りに行くために同僚よりも早く退勤できれば有り難いでしょう。さらに、子どもが病気になれば医者に連れて行かねばならず、薬局で薬をもらって子どもに飲ませ、寝かしつけて様子を見ようとすれば、半日、場合によっては1日潰れます。そういうときのための措置は……そう、日本では結構充実しているのです。

日本でワーク・ライフ・バランスが議論されるときには、どうしても既に充実している第2次ワーク・ライフ・バランスに関心が集中しがちです。一方で、労働時間の上限規制といった問題が議論されるときには、過労死しない程度の長時間労働という観点にならざるを得ず、これも「生命」という意味でのワーク・ライフ・バランスには違いありませんが、その結果、肝心の第1次ワーク・ライフ・バランスがどこかに行ってしまうきらいがあります。

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