残業上限と「女性活躍」を同次元で論じる愚

「生命」ではなく「生活」を守るルールが必要

日本では労働者には残業・休日出勤をする義務があるとして、ではそれに限界はあるのでしょうか。現在のところ、法律上は存在しません。労災保険の過労死認定基準では、発症前1~6カ月にわたって時間外労働が月45時間を超えると業務と発症との関連性が高まり、発症前1カ月間に100時間、または2~6カ月間にわたって月80時間を超えると業務と発症との関連性が強いとされていますが、そのことだけでは労働基準法違反にはなりません。法律上は青天井なのです。

昨年の電通過労自殺事件を契機として急激に盛り上がり、これまで官邸の働き方改革実現会議で時間外労働の上限をどうするかが議論されてきたのは、この問題です。過労死するまで働かせることが可能というのはいくら何でもおかしいのではないか、という話です。

長らくもめていた残業時間の上限規制をめぐる協議では、結局時間外労働の原則が月45時間、年360時間、例外として年間720時間(月平均60時間)、さらにその例外として2~6カ月の平均で休日労働を含んで上限80時間、繁忙期1カ月の上限は休日労働を含んで100時間未満で決着しました。ひとまず制限なしに残業させられる状況には、終止符が打たれそうです。

では、過労死しない程度の残業の上限規制がされれば、女性は活躍しやすくなるのでしょうか。上記の働き方改革実現会議に提示された案には、「女性や高齢者が活躍しやすい社会」とか「ワーク・ライフ・バランスを改善する」といった観点も示されていますが、かえってミスリーディングではないかと思われます。

もっとも、ワーク・ライフ・バランスの「ライフ」を「生命」という意味で捉えれば、命を失うことのないような働き方という意味で理解することはできますが、少なくとも日常の家庭生活とのバランスがとれるかという意味で考えれば、次元の違う話をくっつけているという感は免れません。

時短勤務中と、外したあとの“落差”が問題だ

もっとも、日本にはワーク・ライフ・バランスのための制度がいろいろとそろっています。育児・介護休業法には、育児や介護の責任を負う労働者に対して、育児休業、介護休業というある程度長期の休業制度の他に、1日ないし時間単位の看護休暇、介護休暇、時間外労働の制限、深夜業の制限、短時間勤務等々といった措置が並んでいます。これらを活用しているのは圧倒的に女性であり、そのことも男女平等の観点から議論すべきことですが、問題はむしろそれ以外の労働者に求められている時間無制限の働き方との落差にあるのです。

育児休業をとっている間はいい。あるいは短時間勤務をしている間はいい。だけど、それが終わった後に待ち構えているのは、労働基準法が前提としている「フルタイム」ではないのです。ある女性は私に、「パートタイム勤務が終わったら、フルタイムではなく、オーバータイムが待っていた」と語りました。

上記提示案でいみじくも「原則」と呼ばれている月45時間程度の残業が、(かつては暗黙のうちに男性であった)正社員にとっての「標準」なのであって、それよりも短い「フルタイム」は、時間外労働の制限を請求して初めて得られる「特別扱い」なのですね。

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