トランプ大統領の登場に対し、欧州はじめ主要国の多くの首脳らが当惑しまゆをひそめ、しばらくは様子見で距離を置こうとしている中、安倍首相を筆頭に日本政府のアプローチの積極性は突出していた。それは安全保障や経済の分野でひときわ米国に依存する度合いが高いからだ。
安倍首相は大統領就任前のトランプ氏にいち早く会い、今回の訪米では週末を共に過ごすという濃密なスケジュールをこなした。積極的に動いたのは首相だけではない。伝統的な共和党政権であれば外務省をはじめとする日本の官僚機構にはそれなりの人脈があるが、トランプ政権の場合、主流派から外れた人物や家族が補佐官などの立場で大統領を取り囲んでいる。そこで、今回の首脳会談では駐米日本大使はもちろん首相秘書官、外務省幹部らが一足先に訪米し、会談成功に向けて大統領周辺の要人に積極的に接触して水面下の調整とともに人脈づくりを進めた。
日米同盟が基本の伝統的外交
その目的が日米同盟関係を重視する伝統的スキームの確立だった。
吉田茂首相が1951年に旧日米安保条約に調印して以後、日本外交は日米安保体制の安定を最優先してきた。つまり、「日米同盟関係が確固としたものであれば、経済摩擦など日米間の問題や、他国との関係は何とかなる」という考え方である。この考え方は、冷戦時代はもちろん冷戦後も維持され続けてきた。「日米関係がよければよいほど、中国、韓国、アジア諸国をはじめ、世界各国と良好な関係を築ける」と語ってイラク戦争などで米国に積極的に協力した小泉首相はその典型であり、集団的自衛権の行使容認などを内容とする安保法制を制定した安倍首相の外交もこの文脈の中で構築されている。
米軍はむろんのこと、民主党や共和党の主流派も日米同盟関係を重視する考え方では一致している。日本政府にとって最大の不安材料がトランプ大統領そのものだったのだ。
日米首脳会談に先駆けて日本を訪問した元米軍海兵隊大将のマティス国防長官は一連の会談などで、尖閣諸島が安保条約の適用範囲であると応じ、さらには在日米軍駐留経費負担(HNS)について「日米のコスト負担のあり方は、ほかの国々が見習うべき事例といえるだろう」と述べて、大統領選中のトランプ氏の発言を否定さえした。
首脳会談後の共同声明はそれを大統領レベルまで上げて確認したという意味を持つ。さらに、米国滞在中、北朝鮮がミサイル発射実験をしたことを受け両首脳が並んで緊急会見をして同盟関係の緊密さを世界に誇示したのは、関係者にとっては願ってもないことだった。同盟関係をここまで確認できれば、今回の首相訪米は目的を達成したに等しい。
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